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Nocturne 《夜想曲》  作者: Nebel
始まりの旅
2/15

第一楽章

「わあ、きれいな音……」

 

 校舎外のごみ捨て場で、ウィル=フィアールカはふと足を止めた。

 

 近くの音楽室から、誰かが練習しているのだろう、流麗なピアノの音が流れてきている。

 たくさんの音が現れたり消えたりしながら旋律を作り上げてゆく。それにすっかり聞き入ってしまっていた彼は、後ろに人が来たことに全く気がつかなかった。

 

「ウィールっ!」

「わあっ!?」

 

 いきなり背後から聞こえた大声で、ウィルは冗談でなく飛び上がってしまう。

 慌てて振り返ってみると、そこには楽しそうな友人の姿があった。

 

「ライアット! 何するのさぁ……心臓止まるかと思った……」

「ウィルがこんなとこでぼーっとしてるからだろ。ごみ捨てに来るだけなのに、どんだけ時間がかかってんだよ。早く捨てて、遊ぼーぜ!」

 

 言うが早いか、ライアットはウィルの手にあったごみ箱を取り上げて、あっという間に戻ってくる。ウィルが追いかける間もなかった。

 

「ありがと、ライアット」

「べっつにー。ほら、早く体育館にいこうぜ。みんな、もう行っちまってるぞ」

「うん。……うわっ!」

 

 ごみ箱とウィルの手を一緒につかんで、ライアットが再び走り出す。もともとのんびり屋のウィルは、そのあまりの勢いに、転ばないようについて行くのが精一杯だった。

 

 体育館は、昼休みだけあって凄く賑わっていた。ウィルもその例に漏れず、ライアットと共にその賑わいの輪の中にいる。

 よく見られる、いつも通りの昼休み。

 

 しかし、そんな時間は唐突に終わりを告げた。

 

 

 

 *****

 

 

 

 走っていたウィルの頬に、ふわり、と風があたった。

 

「あれ……?」

 

 思わず動きを止めた彼を見て、横を走り抜けたライアットが不思議そうな顔をして戻ってくる。

 

「どうしたんだよ。止まってると、捕まるぜ?」

「う、うん。そうなんだけど、今の風……」

 

 頬に当たった時、気持ち悪かった感じがした。

 周りでは、多くの人が走り回っている。それによって風は起きるだろう。

 けど、それとは何か違う。

 

「違う……? どう違うんだ?」

「んー、僕もよく分かんないけど、なんか、すごく、嫌な感じ……かな」

 

 不安げな顔のまま、ウィルはあたりを見回した。皆、楽しそうに遊んでいる。

 彼の他には、不審に思った人間はいないようだった。

 

「……気のせいだったのかな……」

「俺は感じなかったぜ――――うわっ、何だこれっ」

 

 いきなり、体育館内に突風が巻き起こった。

 体育館の入り口はしまっていて、風が入ってくるはずはない。しかも、窓から外を見ても、木々は全く揺れていない。つまり、体育館の中だけに、風が起こっているのだ。

 

 気を抜くと飛ばされてしまいそうな強さに、あちこちで短い悲鳴が上がる。

 しかしそれもつかの間だった。風はすぐに止んだのである。

 皆がほっと安堵し、何だったのかと首を傾げていると、体育館の真ん中程で、さっきとは比べ物にならないほどに鋭い悲鳴が上がった。

 

「今度は何だよっ!?」

「……ラ、イアット、あれ……!!」

 

 声が震え、恐怖が全身に襲ってくる。頭から血の気が引いて行くのを感じる。

 動かない腕を、強張る指を何とか動かし、やっとの思いである一点を指し示す。

 ウィルの示す方向を見たライアットの目が、驚愕で見開かれた。

 

魅縺(オルコ)……っ!!」

 


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