第3話 2人の日常
瑞穂は普段、厄介に巻き込まれぬ様なるべく目立たず振舞う事に徹していた。
中学1年の終わり頃に唐突に起こった出来事があった。
下校の支度をしていた瑞穂に後ろから声を掛ける男子がいた。
「武市さん、ちょっといい?」
「えっ、う・・うん、何?」
(たしか隣のクラスの・・・名前がわからない、どうしよう告白かな?)
「付いてきて」
男子の後を5mほど距離を開けて歩く瑞穂。廊下の角を曲がると、同じクラスの
男子と顔しか分からない別のクラスの男子がいた。瑞穂に声を掛けたのは、呼びだ
しを任されただけの男子で、周りを見渡すと同じ学年の男女が10人近くいる事に
気づいた。その中心にいたくだんの男子が顔を真っ赤にしてしゃべり始めた。
「俺とコイツ同時に告白する!選んでくれ。」
(あー、やっぱりか)
めまいを起こしそうな感覚に囚われた。廊下を曲がった瞬間、無理やりショーの
舞台に、主役の一翼として立たされていたのだ。
(何でこんな事やらされなきゃならないの)
「ごめんなさい。私、2人の事よく知らないし無理です、ごめんなさい」
ほとんど言葉を交わした事がないクラスメイト、もう1人は話した事も無い。
全くもって不本意だが、結果的に2人を傷つけてしまい酷く落ち込んだ。
そしての後は無事2人に恨まれて、それは卒業まで続いた。
2人の告白を許さず、間髪入れず断った時のヒリヒリして、そして男子2人の
惨めさと、それを消費する好奇と愚かさがブレンドされたあの場の空気感は、
高校生になった今もハッキリ覚えている。
高校生活も今までの繰り返しなのかと、対応しきれない自身のしどけない心と
葛藤していた。
だがサツキはそんな瑞穂を明るい日向へ、道の真ん中へすくい上げてくれた。
「ねーサツキ、何で私の事なんかを気に掛けてくれるの?」
「えーっ、友達と一緒にいる事に理由が必要?何となく気が合って、一緒にいて楽
しくて、それだけでいいんじゃない?」
昼下がり、楡の大木が作る木陰に置かれたベンチで、2人同じパックの
ジュースを飲んでいた。
瑞穂は人生で初めての仲間に出会えた事に感謝した。
「そうそう瑞穂、うち園芸部があるの知ってる?なんか3年生の何とか言う先輩が
幽霊部長らしくて殆どきていないんだって、ラクそうだから行ってみようよ」
「生き物相手だしラクでもないからさ、サツキそもそも植物に興味ないでしょ?」
「あるよ、多肉植物・・・」
「ほ~う」
サツキの口から多肉植物のワードが出て来るとは予想もしていなかった。
「第一どこから仕入れたの?そんな情報」
「ふへへ、秘密」
「園芸部の件はお母さんに相談してみないと。私がいないとお店まわらないし」
この、何気ないサツキの誘いが瑞穂にとって大きな転換点になって行くのだ。




