第119話 付いた照明
とある日曜日、貞光とメイコは乗って来た車をウツボカズラの駐車場に止めた。
貞光がハグクミ高校を卒業してから早10年が経とうとしていた。
2人は、窓の外から店の中を覗く。
沢山置いてあった植物たちは見るたびに少しづつ減って、今では数えるほどに
なっていた。だがその中の1つが2人が付き合っていた頃、貞光が気に入って
冗談半分で俺が買うから取っておいて、と言っていた植物だった。
(そうだよな、あの形。何かのメッセージ? やっぱり塊根植物だから成長が
遅いね・・盆栽と同じだ)
「どうした? 貞光」
2人はお互いの腰に腕を回して体を寄せ合っていて、仲の良さを感じさせる。
貞光は一昨年種になり、不死者へと変貌を遂げていた。
「うん、随分減ったなと思ってさ。やっぱり誰かが管理してるんだろうね。
さー、行こう」
瑞穂を愛していた思いも既に遠い記憶の片隅へと、追いやられていた。
そして、今日は市議会議員選挙の公示日、ついにサツキが選挙に立候補した。
サツキの横にはもじゃ黒富樫が音頭を取り、サツキのサポーター達と共に
自転車に跨り、市街地をお願い行脚をする。
今まさに、選挙戦の幕が切って落とされるところなのだ。
「片山さん、選挙カーじゃないの?」
「私たちは若さをアピールしたいからね。勿論政策も大事だけど、でもまずは
フットワーク良くをモットーにしたいから」
「がんばって、応援してる」
「森田や石井ちゃんは?」
「石井ちゃん、忙しい森田君を支えてるよ、打たれ強いから頑張ってる。忙しくて
行けないけど、がんばってねって伝えてと電話越しに言ってたよ」
森田は、来年の某冬アニメの作画監督として抜擢され、多忙な日々を送っている。
石井はそんな森田のアパートに、押しかけ女房よろしく突撃した。
何でも煮え切らない森田に業を煮やしたそうだ。実に石井ちゃんらしい。
そして数日後。それはサツキの選挙活動真っ只中に起こった。
富樫が、ウツボカズラに明かりが付いているのを見たと貞光に伝えて来たのだ。
「昨日たまたまお店の前を通ったら2階に電気が付いていてさ、人影らしき
物が動いてたんだ。気になったんで取り急ぎ伝えるよ」
「ありがとう、富樫さん」
電話を切りると奥からメイコが現れた。
メイコは今、盆栽園で貞光とその両親と暮らしている。
「どうした貞光?」
貞光はメイコに抱き着き、メイコもそれに反応して抱きしめ返す。
「ふーっ、メイコはいい匂いだ」
そう言って、メイコの匂いを思い切り吸い込む。
メイコも負けじと貞光の匂いを吸い込むと、お互いの気持ちが溶け合う瞬間がやって来る。
「・・・ウツボカズラに電気が付いたって、富樫さんが教えてくれた」
「そうか・・・瑞穂なのかな?」
「いや、分からない。別の人が買ったとか借りたとかも考えられる」
「そうだな。行ってみるか?」
「メイコ、俺はもう彼女に未練は無いよ。メイコ1人を愛してる。もし瑞穂だと
したら、別の意味で会う必要があると思うんだ」
「奈落か・・・」
「太田やロボが廃人の町に閉じ込められて10年経つが、見た目も当時と全く
変わっていない。これは良い傾向では無いよ」
「分かった」
2人はすぐさまウツボカズラに向かった。
時刻は午前10:00を回ろうとしていた。
お店の前は開店準備で慌ただしくなっている。別の場所に車を止めて歩いて来た
2人は街路樹の影からウツボカズラを伺っていた。
「ぷっ」
メイコが突然吹き出す。
「どうしたの急に吹き出して」
「いやね、あたし高1の時、こうしてウツボカズラにいる瑞穂を見張ったわ。
今、思い出した。それが瑞穂と友達になる接点だったのよ」
それはいきなりだった。その上まるで気配もしなかった。
「2人で何してるの?」
不意に後ろから懐かしい声と甘い匂いが漂う。ビックリして振り返る2人。
目の前には瑞穂が立っていた。・・・そして、その横には女の子が。
固まる2人。
「貞光君見て、貞光君の娘だよ。そしてメイコ、あなたの娘でもあるのよ」
2人は、瑞穂とその娘から目を逸らす事が出来ない。
まるで接着剤でくっ付けられた様に。
「ほら、2人に似てるでしょ。だって貞光君の中に、メイコの細胞が同化
してるんだもん無理も無いよね」
満面の笑みで2人を見つめる瑞穂。
「今度貞光君の盆栽園に娘と2人で遊びに行くね、じゃーお店の準備があるから
またね!」
10年の歳月・・・過ぎし日の思い出が悪夢となって、今の2人を襲う。
どんな試練が貞光を、メイコを、不死者を待ち構えているのだろう。
貞光とメイコはお互いの手を握り締めていた。
そこには2人の、運命や宿命に負けない強い意志が宿っていた。
・・・・・・・おわり




