第118話 その後
貞光は、瑞穂が姿をくらまして以来3日に1回、ウツボカズラの様子を見に
行くのを常とした。そして、何時もガラス越しにお店の中を覗く。
そろそろ枯れてもいい植物が出てもいい頃なのに、いつまでも枯れずにいる。
ある時店の裏手に回ると、ビニールハウスは綺麗に片付けられ更地になっていた。
隣地の借家住まいのおばあさんがこちらを見ている。
「おばあさん、こんにちわ。ここにあったビニールハウスが綺麗に片付けられて
いる様だけど、何か見ましたか?」
「男の人が2~3人で、てんで手際よく片付けてたよ」
「教えて頂きありがとうございます」
誰かが指示をしているのだ。それが瑞穂なのか、母なのか?
枯れない植物と言い、人の気配は無いが誰かが管理をしているのは明白だった。
そして季節は夏を過ぎ秋も深まる。サツキは益々勉強に熱が入り部室には顔を
出さなくなった。森田と石井はとうとう付き合い出して例の聖地に2人、入り
浸っている。メイコは自主退学をした。
ポツンと残された貞光と、ガランとした園芸部室。
「そうさ、1年の時はこうだった。最初に戻っただけさ・・・・・」
貞光は座っていた椅子をくるくる回転させ、回る部室内をぼーっと見ていた。
ふと、盆栽看板が目に止まった。
「・・・・よし、最後にこれを直して園芸部とお別れしよう」
ホコリにまみれた看板、真新しいバケツに水を溜めて雑巾を濡らす。
今日は少し肌寒い。暖房を入れて部室を暖める。
「ふっ。あまり効かないエアコンと・・・最初は綺麗なバケツすら無かったな」
看板を綺麗にして作業台の上に置いた時、ガラガラとドアを開ける音がした。
「貞光いる?」
メイコが差し入れを持ってやってきた。手には、コンビニの袋にあんまんが2つ。
自主退学した今も、こうやって貞光に会いに来る。
まだ、瑞穂の事が完全に吹っ切れたわけでは無い。
だけど今は、メイコの事を好きになっている自分がいて2人の関係を前に進めたい
と思っている。
「盆栽看板ね」
「うん。卒業前に直そうと思ってさ」
「あたし、手伝いたい」
「よし、じゃーお願いします」
「何から始めればいいの?」
「今日は掃除で終わり。週末材料を買うから付き合って」
「うん、分かった!」
もしや、これはデートでは? 少し浮かれるメイコ。
「ところで、山形さん。手先器用?」
「・・・・・いや、不器用」
2人は顔を見合わせて大笑いした、ガランとした園芸部室が明るくなった。
・・・・・・
部室の隅に置かれていた瑞穂が種を撒いて芽が出た多肉は、その後貞光が育てた。
今は職員室や、音楽室に飾っている。




