第117話 別れ その2
土曜日。やはり今日も瑞穂は学校へ来なかった。
そして5人は園芸部室に集まった。
自分達3人が卒業したら、おそらく園芸部は休部になるだろう。もしかしたら廃部
になるかも知れない。勿論、その3人には瑞穂も入っている。
そんな気持ちで、園芸部室を見渡す貞光。
部屋の隅には、瑞穂が多肉の種を撒いた黒いビニールの苗ポットから、芽が出て大
きく育っていた。部室のそこかしこに、瑞穂の笑顔の痕跡があった。
サツキも貞光と同じ気持ちだった。
1年生の時に見つけた盆栽看板も、部室移動の大事件の影響で結局手付かず
ホコリを被ったままになっている。
「行こう! ウツボカズラに行けばハッキリする」
たった1年半程度だが、使い始めた頃と比べて随分と動きが渋くなったドアが
仲間と共に過ごした時間の流れを感じさせた。
5人は部室を後にしてウツボカズラに向かった。
全員終始無言だった。
夏の最中の鉄道高架、日向と日陰のコントラストを自転車のスピードを上げて
5人が通り過ぎる。
何時も待ち合わせをした高架線の足元に差し掛かる時ふと、瑞穂が立ち尽くし
てる気がして胸がチクリとする。
郊外に差し掛かり、いよいよウツボカズラのある通りが迫って来た。
先頭を走っていた貞光が自転車を止める。
「どうしたの貞光」
「ウツボカズラの側に小さな児童公園があるんだ。そこに自転車を止めてそこから
歩いて行こう」
5人は自転車を止めて歩き出した。
程なく、特徴的なウロコ瓦の屋根とでんっ、と陣取った看板が見えて来た。
「ほう、これが武市さんのお家ですか」
「へーっ可愛いじゃん」
「2人は初めて?」
「この辺りは来たことないかも」
「我も多分近くを通る程度ですよ」
自転車や徒歩がメインの高校生達に取っての行動範囲は以外に狭い。
本当の意味で街の全貌を把握するのはあと少し先、車の免許を取ってからだろう。
サツキは裏口に、後の4人は店の前に立つ。
ガラス越しに店内を覗く、植物たちはあるのだが電気は消えていて人の気配が
ない。店が開いている時は、大きな鉢植えの観葉植物などを屋根下の木陰に展示
しているが今日はそれも無い。
裏に回っていたサツキが戻って来た。
「裏口の鍵は掛かってるけど、エアコンの室外機は動いている」
全員裏口へ周り、壁に付けられたチャイムを2度、3度鳴らしたが反応は無い。
「ビニールハウスじゃない?」
ウツボカズラの裏手にはビニールハウスが建っている。
全員急いで向かった。
だが、ハウスの中は綺麗に整理されて空っぽになっていた。
「どうしたん? こんな暑い中みんなして」
隣接の貸家に住んでいるおばあさんが、外の騒ぎに気が付いて声を掛けて来た。
「おばあちゃん、中が空っぽだけど何か知ってますか?」
「昨日男の人たちが2~3人来て全部運び出したよ」
「私達位の高校生、女の子いませんでしたか?」
「いや、見た限りいなかったよ」
「ありがとうございます」
店の前に集まる5人。
瑞穂の母が何時も乗ってい軽自動車は店の駐車場の定位置に止められたまま。
車の中を覗き込んでみるが飲みかけのペットボトルが座席に置かれていたままに
なっていた。
「ん! それ、瑞穂がよく飲んでいたやつだ」
夜まで待つ事にしたメイコと貞光を残して、3人は帰って行った。
児童公園まで戻った2人。
寄り添うように小さなベンチに並び腰掛ける。
少し緊張気味のメイコだったが、貞光の体温を感じて安心していた。
そして貞光もそれは同じだった。
夕刻、電気の付く時間。再度向かった2人だったがウツボカズラは真っ暗、
日中回っていたエアコンの室外機がいつの間にか止まっていた。
瑞穂と母は忽然と姿を消した。




