第113話 新たなる形
引っ越しの荷造りで綺麗になりつつある山形家に神籬がやって来た。手には
酒ではなく、入手した紅茶の高級茶葉。
「酒を抜いてから体の調子が良くて。それで暫くこのままで行こうと思ってさ」
「それで、テーブルの上にまたケーキなんだ」
「そうそう。ところで緊急招集って、一体何があったの?」
メイコは、瑞穂の体から出ているどす黒いオーラが、貞光を飲み込んだ経緯を神籬
に伝える。
「どす黒いオーラ・・・」
「うん。それが貞光を包み込んで、何だろう・・食べている様な印象なの」
「この前、山形家に来た内の1人だよね。でも奈落に楔を打ち込まれた子は
僕が見た限り1人もいなかったよ」
「でも、あのままの状態が長く続くと、貞光君たぶん死ぬよ。メイコの細胞が少し
入っているから持っている様なもんだよ」
翔一も見たままの印象を神籬に伝える。
神籬は話を聞きながら、お皿を手に持ち純銀製のフォークでケーキを切って口に
運ぶと、それを紅茶で胃袋に流し込んだ。そしてゆっくりと話を始めた。
「・・・あらゆる意味で人気のある子だね~」
「ちょっと!冗談言わないでよ」
「いや、変な意味では無くて、我々不死者にとって必要な子かも知れないよ。
我々と奈落は切っても切れない関係でしょ?まだまだ研究段階だけどこの世に
生まれ落ちたのは同じ時期だと僕は思ってるんだ、その両方から好かれている」
「好かれてるのかな・・・?」
「言い方を変えるとすれば引き寄せている」
「うん、それなら分かる。あたし、貞光を見てると気持ちが引き寄せられるの」
「知っている限りで良いんだけど、その子の情報はある?」
「関係あるかどうか・・・あたしらが1年の時、瑞穂が身の上話で聞かせて
くれたんだけど・・子供の頃、女にお父さんを殺されてるんだよ」
「もしかしたら痴情のもつれ?」・・・・・「うん」
「その女も、彼女のお父さんも食われていたら、お父さんを介して奈落に影響
を受けやすい体質になっている可能性があるよ。もしかしたらお母さんも。
太田君とロボと同じ構図さ」
「でも、憎しみや、ねたみや、過度な執着心・・そうか!」
「彼女、彼への執着心が半端ないんじゃない?」
神籬が、確信を突いた。
「あたしの口からは何とも言えない」
メイコはここ最近の瑞穂の行動を思い出していた。過去の瑞穂とはまるで別人で
貞光を2人きりの恋愛カプセル(相互依存の関係)に引きずり込もうとしている
様にも思えていた。
「・・・・あたしにも責任が」
「メイコちゃん、それを言ったら皆の前でメイコちゃんの気持ちをばらして
しまった僕の責任の方が大きいよ。でも誰かが誰かを好きになるのを辞めさせる
事なんて出来ないんじゃない?」
「もう既に食われている・・・瑞穂、どうなるの?」
「もしかしたら奈落は子飼いを増やすつもりなのかも知れない。太田君の様な
タイプ、彼女のようなタイプ、手駒は多い方がいい」
「でも、くっついた別れたなんて日本中であるじゃない。その内、全員奈落に
食われるって事?」
「奈落はそのつもりなんだろうね、だから地上に出ようとしている。進化と言った
方が良いのかも知れない。でもそうなったら明確に我々の敵だよ」
「話はそこまでにして。貞光君はメイコにとって貴重な存在だ、瑞穂ちゃんには
悪いが、引き離す手段を考えないと。2人共、廃人の町に行くよ!」
翔一の脳裏には、太田の顔が浮かんでいた。この問題の解決の糸口は太田が
持っている。何故、途中から貞光の命を狙う事を止めたのか。
その心変わりの心情に、貞光を救い出す手立てがある様に感じていた。




