第110話 人型
今回は不死者達の大勝利で幕を閉じた。翔一が意気揚々と太田に語り掛ける。
「太田君、この廃人の町を案内しよう、仕事もしてもらわないと。オリエンテー
ションだ」
今どんな状況に置かれているのかまるで分からない。
太田は、ここは従った振りをした方が得策と判断した。
「はい、はい」
ロボは、全裸のまま体育座りをしている。
そんなロボを置いて歩き始めた3人、少し行くと太田が2人に話始めた。
「俺、曲がりなりにも高校生だよ・・・突然姿を消したら大騒ぎになるし。
殺人罪は回避したとしても誘拐とかそんな罪になるんじゃない?」
「日本の年間行方不明数知ってる? 大体8万人前後で推移してるんだよ。
君ら2人がいなくなったところで誤差の範囲だよ。それに君がそれを言うの
かい? 一体どれだけの人々を奈落に差し出したのよ」
「人を呪わば穴二つ、自分達で選んだ道だよ。俺は少し背中を押しただけだ。
・・・ねー、ところでおじさんの娘、強いねー。色気もあるし」
「何が言いたい?」
「いや、さぞ男にモテるんだろうなと思って聞いただけだよ」
「そうでもないさ、最近ふられた様だしな・・・」
翔一はメイコの事を思うと胸が痛かった。
だが同時に、今でも貞光を一途に思っている自分の娘に誇りを持っていた。
「相手誰なのよ? 俺あっちも含めて経験豊富だから。ジュニアの大きさでは
ロボに負けるけど。娘に男心をアドバイス出来るぜ」
「君と同じ高校だった羽生貞光君だよ」
「翔ちゃん!もうよしなよその辺で」
(ふーん、あいつ意外とモテるんだ。ここを出たら会いに行ってみるか)
「おじさん・・彼、娘さんを選ぶよ。多分」
「何か根拠でもあるのか?」
「翔ちゃん!!」
「おお、ごめん」
翔一の顔は、娘を心底思う父親の顔になっていた。
「さてっ!ここは結構広いから、順番を追って説明するよ」
話題を強引に変える神籬。
東北地方に位置するこの場所は、360度崖に囲まれている。上を見ると崖が
続いていて、その先の先に空が見えた。かなり深いらしい。白々と夜が明け始め
ているのが分かった。
気温は1年を通して安定している。崖の下であれば暗いはずなのに明るいのは
壁がほんのり緑色の光を放っているのと、不死者達が、至る所に照明器具、投光器
の類を付けているからだった。
「過ごしやすい気温なんだね」
「1年を通して約23度位で安定している。だから全裸でも寒くないだろ」
「いくら何でも着る物位は用意してもらわないと。ここには人権が無いなんて
言わないでおくれよ」
この場所は、岩盤の下を極めて熱い温泉が流れている。その熱が上に伝わり気温を
上げている。地表から300mほど下層にあるので真冬の冷たい空気が下まで降り
て来ない。偶然程よい場所に位置していて、それを不死者達が利用しているのだ。
「崖周りを見てみな」
太田が目を凝らすと人型の物体が数多く転がっていた。
「廃人だ・・・我々と交わって永遠を求めたが、精神が追い付かず死への渇望を
選んだ者達が行きつく先だ」
ある者は岩肌に寄りかかり、ある者は横たわり、ある者は立ち尽くしたまま。それ
ぞれ全く動かない。耳を澄ませると僅かに言葉の様な何かを発している。
廃人達の全身はコケや泥で覆われていた。
「はーっ、、こいつらの世話をするって事かい」
「排泄するわけでもないし、何か食べる訳でも無い。たまに体に付いたコケを
こそぎ落としてくれればいいんだよ」
「うわーっマジで」
「大丈夫、匂いはしないよ」
「当たり前だよ、これで臭かったら最悪じゃん!」
「・・・おじさん。 娘の話なんだけど、根拠はあるよ」
不意にそう言われた翔一だったが、太田の話にそれ以上耳は貸さなかった。




