第107話 決行その日
5月31日 午前0時05分、ロボは日課である夜の徘徊を行っていた。
徘徊と言ってもただうろつくわけでは無い。限りなくゆっくりした動作で、全身の
筋肉と筋、それを繋ぐ神経と脳が直結して自由自在に動かせるイメージを増大させ
それを保ちつつ歩く・・・トレーニングの様なものだ。
加えて虫の羽音、風の揺らぎ、あらゆる極小さな音に集中して神経を極限まで
研ぎ澄ます。正に今、ロボは極限まで研ぎ澄まされた状態になっていた。
そして、それはやって来た。
「山・・形、いる」
幾度となく遭遇して体に刻まれたメイコが発する感覚と覇気。ロボは太田に言わ
れていた、山形には十分注意する様にと。決して1人では対応しない様にと。
だがロボの中の闘争本能、武への圧倒的な自信と探求がメイコと言う極上な食材
を前にして抑えきれない。
「へーっ凄いわね。気を消したつもりなんだけど、気づかれた」
建物の陰からスーッとメイコが現れた。
お互い、真正面で対峙する。メイコがカウンターを得意としている事を知って
いたから、自分から行かない。
「新井公平・・・お前の本名だろ? どこまで覚えている」
「・・・・・」
「羽生貞光は?」
「貞・・光・・・、殺した」
「いや、生きてるよ。ボウガンで射られたのにお前の事を心配してたよ」
「・・・」
ロボは自覚していないが、よだれを垂らし、顔がに二カッーと笑っている。
「駄目か・・・かわいそうに」
もう既にロボの過去の思い出や記憶は無くなっていた。
貞光の事も、ボウガンで射った事のみが脳内に刻まれていただけで、人物と
しては、もう何も覚えていない。
「すぐ楽にしてやる」
「山形・・・軽い・・」
メイコは、あっという間に間合いを詰め、ロボの左脹脛に
自分の脛をけり込む。だがロボはびくともしない。
「軽い・・・・撫でた・・軽い」
メイコの体重は、58kg程度、対するロボは、筋骨隆々で100kg越え。
だが、これはメイコの布石だった。
メイコは自分の細胞を操作して、質量を変える。変えるといっても無限ではない
せいぜい自分の体重の2倍程度が限界だ。
だが、それで十分だった。
「これならどうかしら・・・しゅっ!」
今度はロボの膝の後に腰を回転させながら脛をねじ込んだ。
ロボは、ガクリと前のめりになり頭が下がった。その瞬間、メイコはロボの眉間を
人差し指と中指を立てて重ねた拳で打ち抜いた。
ズブッ・・・
動かなくなるロボ。
「これももう、要らないだろう」
ズリュッ、ズズズズ。
脳みそと両目を吸い上げた。
ロボはその場にうつ伏せに倒れ動かなくなった。
「もしもし、叔父さん・・・こっちは終わった。うん、大丈夫、処理をよろしく」
メイコは泣いていた。貞光が心配していた本来の姿、新井公平の事に思いを寄せて
泣いていた。
近くで待機していた神籬が直ぐにやって来た。そして闇夜に乗じて、ロボの体と共
に翔一の元へと消えた。




