第106話 メイコと石井ちゃん
毒虫の4人が石井と森田が一緒にいるところを急襲した。
ここのところの石井の行動がどうやら気に入らないらしい。メイコの家に
行った事もバレていた。
「石井ちゃん、山形さんの家に遊びに行ったんだって? 私の家に誘った
時は断ったよね―――!」
リーダー格の山内恵子がよく通る声を張り上げる。
近くに音叉があったらその声に共鳴するのではないかと思わせるほど強力だ。
びくりとする石井。森田や、瑞穂、サツキ、メイコ、貞光と一緒にいる時
とは明らかに違う、びくびく怯えた表情になっている。
5月も下旬、既に夏の陽気も出始めている。
「やれやれ、梅雨の時期も近いと言うのに何とも暑苦しいですな」
「うるさいよ、キ森田!」
毒虫の一人が強い口調で応酬する。
「石井ちゃん、購買部に入っている店の本店が商店街にあるの知ってる?」
「・・・ううん、知らないよ」
小さな声で答える石井、うつむいて山内の顔すら見る事が出来ない。
「購買で売って失敗したパン、新しいやつ商店街の店舗で売るんだって、皆
の分直ぐに買ってきて!」
「でも、これから授業だし」
「石井ちゃんの足なら問題ないっしょ!」
「いや、ダメですな。我が行かせませんよ」
「石井ちゃん、キ森田達とあたしらどっちを選ぶの? クラスでの居場所が
無くなるよ!」
山内の声圧がさらに増す。
「うん・・わかった、行って来る」
「はい!お金4人分、おつりが出たら使っていいよ」
石井の手を無理やり掴み、1200円を握らせる。実に巧妙だ。
他の毒虫達がニヤニヤと笑う。
「ほら ほら! !ほら!!」
山内がプレッシャーを掛ける。
「じゃー待ってるよ~~」
4人は用件だけ伝えると石井を残して笑いながら去って行った。
泣き崩れる石井。それを森田が優しく抱え上げる。
「順子氏、我と一緒に行きましょう。たまには授業をサボるのも良いもんですよ」
よほど心細いのだろう、石井は森田にピタリと寄り添って離れようとしない。
(ここは奥の手を使うしかありませんな)
「順子氏、この問題は直ぐに解決しますよ、我に預けて下さい」
その日の放課後、森田はメイコを訪ねて1人1組に赴いた。
貞光と一緒に登った階段を1人で登る。もちらん貞光には内緒で。
だが、苦では無い。石井の泣き崩れる顔、置かれた環境を考えると、3階という
魔境も、或いは蟲毒も大した事では無いと自分に言い聞かせた。
1組に辿り着くと、直ぐにメイコの姿を見つけた。相変わらず瑞穂とは距離を
取っている。
「あれっ森田!どうしたんだ」
メイコは無意識に貞光の姿を探す、瑞穂も森田を見て貞光の姿を探した。
「今日は我1人です。メイコ氏、ちょっとお時間を拝借してもいいですか?」
そう言うとメイコを連れ出して、廊下の隅で話始めた。
森田の話を聞いて、体のいいいじめと判断したメイコは、森田と協力して
毒虫達を一網打尽にする事にした。
そして当日。森田は階段を上り、石井のいる5組へ向かった。時間は昼過ぎ
購買で降伏みかんクリームが売られる時間。
最近は何時もお使いを命令されている事を石井から聞いていた森田。
教室から出て来た石井を捕まえて6組まで連れて行く。
「どうしたの森田・・私、皆のみかんクリーム買いに行かないと」
「もうその必要はありませんよ。ここにいて下さい」
そして、ガラガラガラ――ピシャッ、5組の教室のドアが勢いよく開いた。
「山内さん、石井さんから命令されて降伏みかんクリーム4個お持ちしました!」
びっくりした毒虫4人が声の方向に振り向く。
そこにはメイコが立っていて、その手には降伏みかんクリームの入った購買
の袋が握られていた。
「石井さんからです。どうぞ!」
4人に近づき袋を渡すメイコ。ホオジロザメの様な獲物を捕らえる眼、太田との
決戦を控えていたメイコは既に戦闘モードに入っていて、体から発する抑えきれな
い覇気が、4人を襲う。
毒虫3人はすっかり参ってしまった。リーダー格の山内は抵抗を試みたが、メイコ
が更に強い覇気を浴びせると、吐き気を催しトイレに駆け込んでしまった。
「ここに置いておきますねー」
山内の机の上に降伏みかんクリームの入った袋が残された。
その日以来、毒虫4人は石井に近づかなくなった。そして嬉しい事に、新しい
クラスメイトが1人また1人と石井の元を訪れる様になった。
「小娘、お待たせ。帰るよー」
「・・・うん!」
石井は今、時よりメイコと一緒に下校している。




