第104話 伝えよう本当の気持ちを
ピコピコピー、ピコピコピー、ピコピコピー。
貞光が設定しているスマホの着信音はロボと内山田とお揃いで、お気に入りの
ロボットアニメ主題歌。3人と森田とは若干の趣味の差があり、何時も白熱した
議論になる。
3人でロボ同盟を組み、森田を牽制していた。
勿論、半分冗談の様な同盟で4人は仲が良い。今でもロボはこの着信を使って
いるのだろうか? 貞光は、時々そう思う事があった。
「あっ、瑞穂・・うん、うん、わかったじゃ―その時間に、うん。また後で」
貞光は確かめたいと思っていた。今でも見るメイコの唇が迫ってくる夢そして
愛してるの言葉。そして、幼い頃何度も見たメイコの姿。
貞光にとっても又と無い機会だった。
今日の授業が全て終わった夕方、貞光は1人部室でメイコを待つ。
何となく、気が急いていた。武者震い? 膝も少しカクカクしている。
程なくしてメイコがやって来た。
「やあ・・・」
2人の間に何時もと違う空気が流れている。
何も言わず立ったまま時間が流れる。
「座ろうか」・・・「うん」
2人並んでテーブルの下からパイプ椅子を引いた。
「貞光、今日はありがとう」
「ううん、俺も山形さんに聞きたい事もあって、でも2人きりで会うのが
なんて言うか、瑞穂の手前・・・」
不思議な感覚だった。確かに瑞穂の事は大切でこれからもずっと一緒にいたい
と思っている。でも今は、頭の上にある蓋がパかッと開いて新鮮な空気が流れ込ん
でくるようなホッとした気持ちで心が満ちていた。
「山形さん、俺、小さい頃盆栽の棚場で何度も山形さんを見た・・・あれは・・」
「それは間違いなく、あたしなんだ」
「そうか」
不死者であるメイコ、メイコの父母、不死者の存在、奈落、高速で移動する乗り物
東北の倉庫。それらを体験した今は、当たり前の事の様に受け止める事が出来た。
「まだ幼かった君に会いたくて。何度も行ったんだ」
メイコは自分でもびっくりするほど率直に気持ちを伝えていた。
「君が成長した今でも、毎日君に会いたいと思う自分がいる」
「俺、ここ最近毎日同じ夢を見るんだ。その、山形さんにキスをされる・・
ロボにボウガンで射られて、意識が無くなる直前なのかな、唇が動いた」
色白のメイコの耳が真っ赤に染まる。そして、
「あたしは君が大好きだ、愛しています」
気が付くとお互い見つめ合い、そして抱き締め合っていた。
以前メイコに抱きしめられた時とは違う。柔らかい胸、適度に引き締まった体と
その匂い。女性を知った貞光にとってそれは間違いなく魅力的過ぎる物だった。
だが・・・
「ごめんね山形さん。凄く嬉しい、だけど俺には瑞穂がいて、とても大切な
存在なんだ・・・分かれる事は出来ないよ」
「ううん、それでこそあたしが好きになった男だよ。良いんだそれでいい。
瑞穂と仲良くな。だけど、ほんの頭の片隅で良いい、たまにはあたしの事を
思い出してくれたら嬉しい。さあ・・・・・もう行って」
メイコは貞光の体を反転させて、背中を押した。
「後ろを振り向くな!」
貞光はメイコに言われた通り、後ろを振り向かず去って行った。
園芸部室に一人残されたメイコ。その目には涙が滲んでいる。
「自分の気持ちは伝えられた。あとは彼の細胞と同化したあたしの細胞達
に託すしかないかな・・・はー、あたしはなんて不器用なんだ」
メイコは大きなガラス窓の外に広がる、隣接地の雑木林を見つめながら
大きなため息をついた。
そして、貞光は2人が何時も待ち合わせする高架鉄橋の足もとに急いだ。
そこに瑞穂はいた。
「お帰りなさい」
「ただいま」
何時もと変わらぬ貞光、何時もと変わらぬ瑞穂。
2人は抱き合ったまま暫く離れる事はなかった。




