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第八十一話 告白

 第八十一話    告白



 「あの……鳳仙花魁……」 片山は真っ赤な顔で見つめている。

 「あの片山さん、どうかされましたか?」 


 三原屋の台所は静寂のまま数分が経つ。


 全員が緊迫した場面の中、



 「いけ―っ!」 


 いきなり橘が叫ぶと、台所にいた梅乃と小夜、采までもが驚き後ろにひっくり返る。



 「び びっくりした……」 「この場面での大声は心臓に悪いよ……」

 梅乃と小夜は、はだけた衣服を直していく。



 「どれ、私は邪魔かね……」 橘が台所を出ると

 (とっくに邪魔なんだよ。 余計なことを……) 片山は橘の後ろ姿を睨んだ。



 「それで、片山さん……?」 鳳仙が片山を見つめると

 (うっ…… 眩しいくらいだ……) 片山の頭がクラクラとしだす。



 誰もが待つこと数分


  “パチンッ―” 鳳仙が片山の頬を叩く。


 「ハッキリしてくださいな! 何ですか?」 

 「すみません…… その……」 なかなか言い出さない片山に、


 「ないなら失礼しんす……」 そう言って、鳳仙は三原屋を出ていってしまった。



 「せっかく橘さんが作ってくれたチャンスを……」 梅乃は肩を落とす。



  “シュン……” しかし、落ち込む片山の同情する者はいなかった。


 (あそこまでなって、言わない潤さんが悪い……) 大部屋から見つめる妓女たちもガッカリしたようだ。



 落ち込む片山に勝来が話しかける。

 「線香、買う?」 「……」 片山は目が点になる。


 妓女と交わるには線香で時間を計っている。

 とてもではないが、片山の想いは鳳仙にある。 勝来は茶化して言っていた。



 昼見世の時間が始まる。 鳳仙は鳳仙楼で様子を見ていた。 

 新花魁の花緒が心配なのであろう。



 「なぁ花緒、ここ最近は上向きになって感謝しているよ。 ここいらで三代目鳳仙を名乗る気はないかい?」 鳳仙が訊ねると、


「私は居座っただけの花魁でありんす。 それは次の人でお願いいたしんす」

 花緒は静かに頭を下げる。 今、鳳仙楼は三原屋の庇護の元で運営している。 ここで三原屋を裏切ることは出来ないので鳳仙名乗るのは控えているとのことだ。


 「生真面目だな……」 鳳仙が息を漏らすと

 「私は近藤屋から玉芳花魁に救ってもらいました。 それを踏みにじる訳にはいかないじゃないですか……」


 花緒はニコッと微笑んだ。



 張り部屋、昼見世では顔を売る作業である。

 「寄っていかないかい? 線香代、まけとくよ~」 妓女たちは年季を払う為に頑張っている。


 花緒の年季は三原屋に払っている。 信濃が会計した売り上げを三原屋に運んでいく。


 「なんだか鳳仙楼が上がっているね……」 采がそろばんを弾きながら言うと、横では梅乃が三原屋の計算をしている。



 江戸時代後期、日本は世界一の識字率だった。

 農村部や下級家庭などの子供たちは丁稚奉公や禿などに出されて、それなりの教養を与えられていた。



 梅乃と小夜、古峰も そろばんや書道。 舞踏に楽器などを勉強させられている。 中でも梅乃は医術も学んでいた。


 「お婆……」 梅乃が帳簿を見せると

 「これって……」 采の顔が曇る。


  “クイッ ” 采が顎を上げて梅乃に指示する。



 「すみません…… この数字……」 梅乃が妓女に話し出す。

 「梅乃かい? どうしたんだい?」 妓女が梅乃を見ると、


 「この数字、どうしても合わないのです…… 線香や揚げ代などを計算しても合わないのですが、何かに使っています?」


 「そんな訳ないだろうが! いい加減な事を言うんじゃないよ」

  “ガンッ―” 妓女は梅乃を蹴った。



 「な 何しているんですか?」 古峰が妓女との間に入ってくると

 「お前もコイツの味方をしやがって……」 妓女は苛立ち、二人を睨む。


 「説明しな。 じゃないと置いておけないよ」 采が横から口を挟むと



 「ちっ…… だから花魁も置けない妓楼は」 妓女は悪態をついてしまう。


 花魁を置かない妓楼は、屋台骨がないことを意味する。 信頼関係や、この先の見通しもたたない事に腹を立て、金を誤魔化していたらしい。



 「そんな者は置いておけないよ」 采の目は厳しく、梅乃に指示をすると

 「わかりました」 妓女は荷物を整理する。


 大部屋は静まりかえってしまった。


 梅乃と小夜が妓女を見つめる、 妓女はイライラした様子で荷物を整理していたのだが


 (あんまり荷物を持っていない…… 誤魔化したお金は何に使ったんだろう?) 梅乃は不思議でならなかった。



 妓女が出て行くと梅乃が後を追う。

 「姐さん」 声を掛けると

 「なんだい? 付いてきたのかい……」 


 「なんで、こんな形に……」 梅乃の目には涙が溢れてきている。 数年もの間、三原屋で苦楽をともにしてきたのに釈然としない別れだからだ。



 「お前、三原屋を大事にしなよ」 妓女はそう言って去っていく。 しかし、年季が明けないうちは吉原から出ることも出来ない為、小見世に向かっていくしかなかった。



 それでも三原屋に残っている年季は働かせた見世が引き継ぐことになる。 それで見世が決まらないようであれば夜鷹になってしまうしかないのだ。


 鳳仙が昼見世の営業を見届け、茶屋で休む。 見世の立て直しができないうちは気が抜けないものだ。


 自身で経営している手習い所は休業状態。 実家である鳳仙楼を最優先していた。



 (この先、どうしたら……)


 住まいは玉芳の主人である大江に屋敷の小屋を借りている。 それも、いつまでも甘えていられる訳でもない。



 引手茶屋の千堂屋で茶を飲みながら考えていると、そこに片山がやってくる。

 「片山さん……」 鳳仙が声を掛けると、片山が気づく。


 「鳳仙花魁…… 先ほどはすみません……」 


 「いえ、いいんですよ。 買い物ですか?」 鳳仙が訊ねると、片山は微動だにしない。 まっすぐに鳳仙を見つめている。



 「どうされました?」


 「……です」 片山が言うと

 「えっ? 今、なんて?」



 「…… ずっと前から好きでした」 片山は真顔で見つめると、鳳仙の目から涙が溢れてくる。


 「グスッ―」 涙が止まらない鳳仙に、片山は顔が赤くなってしまう。



 そこに客が奥座敷に向かおうとすると、

 「すみません…… 用意が出来るまで、外で待っていてもらえますか?」 千堂屋の野菊が客を追い出す。


 野菊は陰から見守っていたらしい。 大事なシーンを壊さないようにしていたのだ。



 「あの…… 返事はしなくてもいいです。 身分も違うし、覚悟はできていますから……」


 片山が告白をすると、鳳仙に背を向ける。

 「待って……」 鳳仙が片山の腕を掴む。



 「私…… 病気をして、胸もなくなった女になりんした…… そして女郎だった私を好いてくれたんですね……」 


 「はい…… 余所の見世でしたが、ずっと好きでした……」

 そこに数秒の時間が流れ


 「前に渡した予約券、持っていますか?」 それは鳳仙が吉原を出る時、紅を付けて片山に渡したものだ。


  “スッ―” 片山が鳳仙に見せると


 「ずっと、持っていたのでボロボロになってしまいましたが使えますか?」



 「もちろんです……」 鳳仙は、片山の背中に抱きついて泣いた。



  “パチパチ……” 拍手をしながら野菊が声を出す。

 「よかった…… 本当によかった……」 泣きながら野菊が祝福すると


 「の 野菊さん? 聞いていたの?」 鳳仙が涙を拭いながら慌てていると、

 「客だって外に出して待たせていたんですよ!」 野菊は頬を膨らます。



 「お気遣い、ありがとう……」 鳳仙は、外で待っている客に頭を下げる。



 「なんだい、鳳仙花魁だったのか…… 随分、待ったぜ」 客が鳳仙の馴染みだったようだ。


 「随分と待ったのは私でありんしたよ~」 鳳仙がチラッと片山を見ると



 「すみません……」 片山は頭を下げるばかりだった。



 それから二人は采に報告の為に三原屋に向かう。

 盛大な拍手の中、片山と鳳仙は笑顔だった。



 「さて…… 小夜はいるかい? 一緒においで」 采は小夜と片山の二人を連れ出し、吉原の外へ。



 「うわ~ 初めて~♪」 大門を出て、少し歩くと柳の木がある。 そこは、客が吉原を後にして振り向く場所から『見返り柳』と呼ばれている場所だ。


 小夜も同じように吉原を振り返る。 

 「これは梅乃も経験してない場所よね♪」 小夜がご機嫌で話すと、

 「確か、梅乃は誘拐だったから船だもんな……」 采も笑って話していた。



 それから四人で、吉原近くの長屋を探す。


 そして、采が部屋を借りてあげることになったのだ。



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