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第七十八話 吉原参戦

 第七十八話    吉原参戦



 「古峰……お婆は?」 梅乃が朝から采を探している。

 「わ わからない…… 部屋に居ないの?」



 「失礼しんす、梅乃です」 梅乃は采の部屋の前で声を掛けるが、返事がない。


  “スッ―” 襖を開けると、采はいなかった。



 「あれ? 父様、お婆知りません?」 文衛門に訊くが、首を振っていた。



 (どこだろう……?) 梅乃が仲の町に出て采を探していると、

 「梅乃~」 と、声がする。 梅乃が振り返ると鳳仙が立っていた。


 「鳳仙花魁……」 


 「梅乃、鳳仙楼を助けてくれて ありがとね…… 花緒もしっかり頑張ってくれているよ」 


 「良かったです。 それで、朝からお婆を探しているのですが見つからなくて……」 梅乃がキョロキョロすると


 「采さんが? 何かあったのかしら……」 鳳仙は首を傾げる。



 「見つかったら探しているって言っておくよ」 そう言って、鳳仙は戻っていった。



 「梅乃様……」 今度は男性が声を掛ける。

 「あっ、土屋様……」 驚く梅乃は、周辺をキョロキョロと始めると


 「玲様は来ておりません……」 土屋は梅乃の行動を理解していたようだ。


 (ホッ…… また波乱が起きるかと思った)



 「どうして土屋様が吉原へ?」 

 「それが……」 土屋が難しい顔をする。


 (どうした?) 梅乃がキョトンとすると

 「奥様が吉原に来ていまして……」



 梅乃は場所を聞き、小見世が並ぶ水道尻まで走っていく。

 「どこだ?」 梅乃がキョロキョロしていると


 「また見世を出やがって……」 

 「すみません……」 条件反射で謝ると、そこには采と洋蘭が立っていた。


 「洋蘭姐さん―」 梅乃が洋蘭に抱きつくと、 「梅乃……」 洋蘭も梅乃を抱きしめた。



 「どうしてお婆が小見世に?」 梅乃が訊くと、

 「ここさ…… ここが三原屋の最初の場所だったんだ。 二人で懐かしんでいたのさ」 采が嬉しそうな顔をして説明をする。



 「こんな小さい見世から始まったんですね」 梅乃は目を細める。 梅乃が赤子の頃は中見世だったが、物心が付くころには三原屋は大見世だった。



 「それで、懐かしんで吉原に来たって訳ですね」 梅乃が洋蘭を見ると、

 「いや、下見だそうだ。 洋蘭コイツ、見世を出したいなんて平八郎に言ったんだよ」 采が呆れ顔で話す。



 「姐さん、本気ですか?」 梅乃が目を丸くする。


 「ここがいい……」 洋蘭は言葉少なく、小さな見世を指さす。 それは三原屋が最初に出した場所だ。


 「お前……」 采は驚いた表情で洋蘭を見る。



 幸いな事に洋蘭が選んだ場所は空室であった。 そこに土屋と平八郎が合流すると、


 「そうか、ここか…… 懐かしいな」 平八郎も目を潤ませる。



 「お前さん、本気で見世を出してやるのかい? それに商売は大変だよ」

 采は心配して言っているが、


 「ここは私にとっても、洋蘭にとっても思い出の場所です。 ここで頑張っていきたいと思います」 平八郎はニコッと微笑んだ。



 そして、数日後に契約をしたとのこと。

 「本当に大丈夫なのかね……」 そう言いながらソワソワしている采であったが、荷物などが運び込まれると颯爽と小見世まで足を運んでいく。



 (これも親心なんだろうな……) 梅乃は采の懐の大きさを理解できるようになっていた。




 それから数日が経ち、見世が形になってきたのだが……

 「見世の名前は何にするんだい?」 采はキセルを吹かせながら訊くと、


 「……」 何も出てこなかった。 采は “ガクッ―” と身体を滑らせる。


 (考えもしないで見世を出そうとしたんかいっ―) 苦笑いになっていく。



 「ああぁぁ……」 洋蘭が言葉にならなくなっていく……

 (名前を考えるだけでストレスなんかいっ―) 采は連続でツッコミを入れてしまうほど呆れてしまった。



 「まぁ、開けるまでに考えておきな。 そんな事でストレスを感じるようじゃ、経営なんか出来るのかね~」 采は言葉を残して三原屋に帰っていくのであった。


 それからも采は洋蘭の見世に足を運んでいく。

 この日は梅乃も同行していた。



 「こんにちは」 梅乃が明るく、元気に挨拶をすると

 「梅乃……」 洋蘭は梅乃を抱きしめる。


 (母子で梅乃を気に入りやがって……) 采は小さく笑みを浮かべる。



 「お婆、名前付けました……」 洋蘭は一枚の紙を出す。

 そこには「香梅楼こうばいろう」と書いてあった。



 「まさか……?」 采の額に汗が流れる。


 「いくらですか?」 洋蘭は、真剣な眼差しを采に向ける。



 「??」 梅乃には理解が出来ず、二人をキョロキョロと見ると

 「すまんね…… 梅乃は売れないよ。 妓女じゃないしな……」 采が断っている。



 吉原では妓女になる子供を女衒から買い取っている。 人身売買などが当たり前にあった地域なのだが……


 「お婆…… お願いします」 洋蘭は何度も頭を下げるが

 「ならん― お前、そこまでは面倒見きれないよ! よりによって梅乃を……」



 采は背を向け、梅乃を三原屋に連れていった。


 (きっと、梅乃に渡す見世として『香梅楼』と付けたのだろうね……)



 その数日後、香梅楼が見世開きとなる。 現代で言えば『オープン』となるものだ。


 采は心配して香梅楼の前で様子を見ていると、中から妓女が出てくる。 小見世は小さく、張り部屋もない場所。 妓女たちの披露も出来ない見世は、外に長椅子を並べて妓女を座らせている。


 (昔、三原屋ウチも ああやってたな……) 采の目に涙が溢れていく。

 その昔、三原屋も長椅子に妓女を並べていた。 その妓女の一人が洋蘭だった。



 「お婆……」 梅乃、小夜、古峰の三人がやってくる。

 「お前たち、何しているんだい! 見世に戻りな!」 采が呆れたように言うと、



 「えへへ~♪ お婆だって心配だから来たんでしょ? 私も同じですよ♪」

 梅乃が答えると、小夜と古峰もニコニコしている。


 (すっかり大きくなって…… 私の思いまでめるようになったか……)

 采は三人の禿が成長したことに喜んでいた。



 「では、手伝ってきます」 梅乃たちは、妓女が並んでいる長椅子まで寄っていくと


 「こんにちは。 新しい見世ですね。 私達は大見世の三原屋の梅乃と言います」 「小夜です」 「こ 古峰です」 三人は名乗り、妓女たちと談笑していく。



 「お婆……」 見世の中から洋蘭が出てくる。

 「とりあえず、見世開き おめでとう」 采は洋蘭を抱きしめた。



 「お婆……ありがとうございます」 



 「キャーッ」 見世の中から声がする。 洋蘭が慌てて見世の中に戻ると、梅乃たちも中に入っていく。



 ここは小見世であり値段が安い分、客層も悪かったりする。


 「古峰!」 梅乃が合図をすると、古峰は走って大門に走り出す。 これは悪い客に対して抑制する『岡引おかっぴき』と呼ばれる者を呼びに向かったのだ。


 ※岡引きとは、江戸時代の町奉行所の下級役人で犯人逮捕などを私的で行っていた民間警察となる者。 現代での警備員。



 すると依頼をされた岡引きがやってくる。 見世の害となる客は吉原を追い出されていくのだ。



 「ありがとう……」 洋蘭は梅乃の頬を撫でる。 そして小夜や古峰にも礼を言うと、三人は無意識に “ニギニギ”をして称え合う。


 (この三人の絆は凄い…… 玲は、なんて愚かな事をしたんでしょう……)

 洋蘭は、娘の愚行に深く反省していた。



 「それで、貴女たちは子供よね…… 大人の女が子供に助けられるなんて恥ずかしい……」 妓女の一人が言うと、周りの妓女も頷いている。



 香梅楼の妓女は、深川の遊女や夜鷹だった者を集めた集団。 江戸時代から昔で言うと『野武士』のような存在である。 これから仕事を通して吉原の しきたりを学んではいかなくてはならない。



 「一緒に行きましょう」 梅乃が誘うと、妓女たちは呆気にとられながらも付いていく。


 そこは引手茶屋だ。 そこで妓女たちは挨拶をし、客の案内などを斡旋している茶屋を知っていく。


 そこには洋蘭も行き、女将として挨拶をするのだ。


 「これで大きな見世を回りましたね。 よかったら三原屋に来てみますか?」

 昼見世が終わる頃、三人は三原屋を案内する。



 「うわ~ 大きいし、立派……」 香梅楼の妓女たちは三原屋の造りを見て驚いている。


 「いらっしゃい♪ ささっ、中にどうぞ」 片山が案内すると、妓女たちは大部屋に向かっていく。



 「はじめまして……」 三原屋の妓女たちが挨拶をすると、気後れをしたかのように香梅楼の妓女が頭を下げる。


 その中でも特に驚いているのが洋蘭である。 洋蘭が知っている三原屋は、今の香梅楼があった場所だったからだ。



 「おい、そんな顔をするな。 何年経ったと思っているんだい?」 采はキセルを吹かせながらやってくる。



 「お婆……」 洋蘭が頭を下げると、

 「梅乃、席に座っておけ」 「わかりました」


 梅乃は遣り手席に座り、采がやっていた帳簿の続きを始める。



 「梅乃……?」 洋蘭が驚く。 帳簿や、遣り手の席に座るのは女将と呼ばれる者ばかりである。 梅乃が席に座っているだけで、全員が不思議そうな顔をしていると


 「吉原でも、遣り手の席に座っている禿は梅乃だけだろうね……」 采がケラケラと笑いながら話す。



 「……」 洋蘭は言葉にならなかった。


 「これで解ったろ? 梅乃は誰もが欲しがる逸材なのさ。 ここにいる小夜は双子のように育ったし、古峰も二人の妹として育っているのさ」


 これで洋蘭は絆について理解をした。



 それから洋蘭は妓女に指導を行う。 なかなか言葉が上手に言えないながらも、妓女たちは理解をしようと頑張っている。



 それを見ている采は、目を細めて娘を見守っていたのであった。


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