表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/78

第七十話 家族

 第七十話    家族



 「これでよし…… おじさん、だいぶ良くなりました。 もう少しですよ」

 梅乃は玲の父親の手当を朝晩としている。


 「すまない……」 玲の父親がボソッと言うと、

 「いいえ。 話せるようになっただけでも安心ですね」

 梅乃がニカッと笑う。



 その後、梅乃は二階に向かい

 「姐さん、おはようございます……」 大きな声で挨拶をすると、

 「朝から元気でありんすな……」 洋蘭が笑顔を向ける。



 それを見ていたのが土屋である。 土屋は物陰で涙を流していた。


 「奥様…… あんなに笑顔になって……」



 それから梅乃が洋蘭を中庭に誘う。

 「姐さん、部屋の中だけでは身体に良くないです。 たまには陽の光を浴びましょう!」


 そう言って、梅乃が洋蘭の手を握ると笑顔で立ち上がる。

 (なんとか身体は動くな。 もう少しだ……)


 梅乃が玄関のドアを開けると、


 「なんだい。 アンタ生きていたのかい!」

 そこには正妻が立っていた。


 「あっ…… おはようございます」 梅乃が挨拶をした瞬間、

  “バッ―” 洋蘭は背を向けて二階へ戻っていく。


 それを見ていた正妻は、「ふん……」 鼻で息を吐き、屋敷に戻っていく。


 (せっかく外に出られる時だったのに……)



 「梅乃ちゃん、ゴメンね…… 私達が此処に来てから、あの人の機嫌が悪いのよ……」

 玲が梅乃に謝ると、力が抜けたように椅子に腰をかける。



 「やはり、正妻と妾だからでしょうか?」

 梅乃も十四年、吉原に住んでいる。 男女の事情や、妾として身請けされた妓女も見てきた。 これには納得をしてしまう。



 それから、梅乃は洋蘭に寄り沿うようになっていく。 

 (なんとか笑顔にしてあげたいな……)



 「姐さん、食事を持ってきました」 梅乃が運んでくるが、昼間のことから口を付けなくなる。


  “カタッ ” 梅乃がテーブルに皿を並べても見向きもしない。 ただ窓から外を眺め


 「かごめ かごめ……籠の中の鳥は いついつ出やる 夜明けの晩に……」


 (また、かごめかごめ……) 梅乃は寂しそうな目で洋蘭を見つめていた。



 翌朝、梅乃が洋蘭の部屋に入ると

 「姐さん、おはようございます。 って……」 梅乃が見ると、洋蘭が窓から身を乗り出していた。


 「何をしているんですか!?」 慌てて梅乃が洋蘭を押さえると、声に反応した玲と土屋が部屋に入ってくる。


 「お母さん!」 玲も一緒になって、洋蘭を救いだすと

 「あわわわ……」 梅乃がバランスを崩し、二階から落ちてしまった。



 「梅乃ちゃん―」 玲が大声を出すと、土屋が外に飛び出していく。


 「ああぁぁぁ……」 洋蘭が声を出し、涙を流し始めると

 「お母さん……」 玲は、ギュッと母親を抱きしめた。



 外に出た土屋が、「梅乃様―」 声を出すと

 「ここです……」 梅乃が細い声で返事をする。


 洋蘭の部屋から落ちた梅乃は、偶然にも下に植えてあった生け垣に挟まっていた。


 「いてて……」 土屋に引っ張り出された梅乃は、

 「ありがとうございます」 頭を下げると、玲が外に出てくる。

 「梅乃ちゃん― 怪我はない?」 


 「はい。 この木に助けられました」 梅乃は木の先端を軽く撫でる。


 「あれ?」 梅乃がキョトンとする。 そこには洋蘭が立っていた。

 「お母さん、自分で外に……」 玲は涙ぐんでいる。



 「何なの? 今の音は?」 そこに正妻が出てくる。

 「すみません。 私が失敗しまして二階から落ちてしまいました」

 梅乃が説明すると、


 「まったく…… 坊主の娘は野蛮な事が好きなようね。 お前も!」 正妻が指さす先には玲がいた。


 「まったくですね」 梅乃が笑って誤魔化すと、

 「お前も外にいるなんて……」 今度は洋蘭を睨む。



 洋蘭が小刻みに震えているのが目に入る。 そこで梅乃は

 「この生け垣、気持ちいいですね。 フカフカしますよ」 手を気の枝に触れると


 「そうかしら?」 正妻が生け垣の前に立ち、先端に触れようとすると


  “ドンッ―” 梅乃は、正妻の背中を押してしまう。

 玲と土屋が驚きの表情をすると


 「ぎゃー」 正妻は声を荒げて生け垣の上に倒れてしまう。

 そして、梅乃も生け垣の上に寝そべると


 「ほら、おばさん…… 綺麗な空でありんすな~  たまには空を眺めてみるのも良いですよ」 梅乃の言葉を聞いた正妻は、驚きながらも空を眺めている。



 「貴女、どこから来たの?」 正妻が聞くと

 「吉原でありんす……」 


 すると、正妻が語気を荒げる。 「また女郎が私を侮辱しに来たのか!」

 正気を失った正妻が梅乃を睨みつけると


 「すみません。 私が連れてきてしまいました……」 玲が頭を下げる。



 「お前…… この泥棒女の娘の分際で……」 正妻は、身体を震わせながら怒っていると


  “スッ―” 洋蘭が玲の前に立ち、庇っている。


 「この泥棒女が―」 正妻が洋蘭を叩こうとすると

  “パンッ―”


 梅乃が前に立ち、代わりに頬を叩かれていた。



 「すみません― 私は捨て子でした。 生まれてからスグに吉原で拾ってもらいまして、卑しくて すみません……」 梅乃が頭を下げると、鼻血が流れる。



 「本当ね。 女郎に育てられたんだから」


 「けんど、人の物を盗んだりはしません。 吉原の女でも誇りがありんすっ!」

 梅乃が、キッと正妻を睨むと


 「汚らわしい血で庭を汚さないでよね」 正妻は、捨て台詞を吐いて屋敷に戻っていった。



 「梅乃ちゃん―」 玲が涙を流して梅乃を抱きしめると、

 「姐さん……」 梅乃は洋蘭を見つめている。

 そこには怒りに震える洋蘭が屋敷を睨んでいた。



 そして夕飯の支度をする玲。 横には梅乃が手伝っている。

 「玲さんて、料理が上手なんですね~」 梅乃が憧れの眼差しで見ていると、

 「簡単な物ばかりだよ。 梅乃ちゃんだって、出来るわ」

 この姿は年の離れた姉妹にも見えてしまう。



 夕飯が出来上がると、父親から食事を出す。 早めに済ませてから怪我の手当てをしていく。


 「では、消毒しますね」 梅乃が背中に酒を掛けると

 「―っ! でも、前ほどは痛くないな……」 父親が微笑むと、


 「まだ痛むのは、ばい菌があるからです。 また見ていきますね」

 梅乃が手当てを済ませると、急いで二階へ向かう。


 「姐さん、失礼しんす」 戸を開けると、洋蘭は本宅を睨んでいる。


 「姐さん……」 洋蘭は、梅乃が夕飯を並べる時まで本宅を睨んでいると


 「姐さん、女郎が嫉妬してはなりませんよ。 嫉妬されるのが妓女でありんすから……」 


 そう言って、梅乃がニカッと笑う。

 「梅乃……」 洋蘭は涙を流し、梅乃の腫れた頬を撫でる。


 こうして梅乃が洋蘭に付き添うようになり、笑顔が出るようになっていった。

 「梅乃ちゃん、本当にありがとう……」 玲が涙を流し感謝をすると


 「えへへ~」 梅乃はニギニギを始める。


 「梅乃ちゃん、それは何の?」 玲がキョトンとすると、

 「これは、吉原で小夜と古峰の三人でやっていたのです。 元は、玉芳花魁もですが「絶対に花魁になろう……」と誓った事なのです」


 梅乃が説明すると、玲は梅乃の手を握る。


  “ニギニギ……” 

 「みんな、よくな~れっ!」 梅乃が声を出し、ジャンプをすると


 「なんか気持ちいいね♪」 玲は子供のように はしゃいでいる。

 (よかった。 このまま、このまま……) 



 こうして玲の家は落ち着きを取り戻していく。

 それから一週間が経った頃、玲の父親が元気を取り戻していくと


 「梅乃ちゃん、本当にありがとう。 この傷が治るなんて……」

 玲の父親が感謝すると、目の前に札束を置く。


 「これは?」 梅乃が目を丸くすると

 「治療代だよ。 治してくれたんだ、受け取ってくれ」 


 「あの……もらえません」 梅乃が両手を前に出す。


 「どうして?」 これには玲も驚いてしまう。

 「私、医者じゃないですから……」



 この言葉に静まり返ってしまう。


 「そうか…… あまり気に入ってくらないなら、私の娘になってくれないか?」 父親が言うと、玲は嬉しそうな顔をする。


 「あの……家族が出来るのって、私も嬉しいのですが……」

 梅乃が申し訳なさげに切り出すと、玲たちは息を飲む。


 そこに洋蘭が階段から降りてくる。

 「まず、本当の家族を見せてください。 それで憧れたら、私もお願いします」

 梅乃が頭を下げると、三人は笑顔になって見つめ合う。



 (問題はアッチか……)



 その頃、三原屋では采が小夜と古峰を呼んでいた。

 「お前たち、そこまでして梅乃を取り戻そうと……」


 采は後から古峰と小夜が、梅乃を探しに出ていっていた事を知った。

 「それは、家族ですから…… 私と梅乃は双子のように時間を過ごしました。 こうして十四歳になれたのは、お婆や梅乃が居たからなんです……」


 小夜が恐る恐る話すと、古峰が自分を指さしている。

 (私の名前は……?)



 「家族か……」 采の身体が震え、今にも涙が出てきそうになっていた。



 玉芳も、佳と一緒に布団に入り

 「私は家族を守らないといけない…… でも、梅乃も私の子。どうやったら全てを守れるんだろう……」



 血は繋がっていないにしても、立派な家族が存在することを知った日になっていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ