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第三十三話 紅

 第三十三話    べに



 冬も終わる頃、昼間の暖かさを感じられるようになってきた。


 そして、頬に温かさを残している者がいる。

 片山である。



 片山は、鳳仙が触れた頬の感触が忘れられずにいた。



 『ボーッ……』 仕事をしているものの、少しすると鳳仙を思い出しては こうなってしまう。



 (重症だな……) 禿の三人は、遠目で見ていた。



 「古峰~ ちょっと……」 妓女のひとりが古峰を呼ぶと


 「は~い。 ね 姐さん、行きます」 そう言って大部屋に向かう。


 玉芳が厳しく言ったことから、禿に厳しく言うことは減っていた。

 古峰も段々と警戒は薄れ、返事も明るくなっていた。



 (やっぱり玉芳花魁は凄い……) 梅乃の理想は玉芳であり、いつかは玉芳のようになりたいと思っていた。



 昼見世の時間、妓女は張り部屋に入る。

 ここで顔を売り、夜に指名を貰う為である。



 段々と暖かくなり、人足も増えてきたころ


 「古峰も中に入りなさいな~」 そう言って、張り部屋に古峰が引きずり込まれる。



 「あ、あの……」 口下手な古峰は、上手く断れずにいた。


 そして、妓女の一人が化粧道具を持ち、古峰に化粧をする。


 「あわわわ……」 化粧をされるのが初めてな古峰は、言われるがまま流されていった結果……



 「えっ?」 全員がポカンとする。 


 「あの……何か?」 古峰が不思議そうな顔をする。



 「お前……鏡、見てごらん」 妓女が鏡を古峰に見せると


 「誰だ……?」 古峰自身も驚いていた。


 顔立ちが濃く、ハッキリしていて目が大きく大人っぽい古峰に全員が黙った。



 古峰が どうしていいか分からず “チラッ ” と、梅乃と小夜を見ると



 (なんか勝者の顔に見える……) 梅乃と小夜は、ショボンとして歩いて行ってしまった。



 (えーっ? 助けてくれないの?) 古峰は見捨てられたような絶望感を味わっていた。


 その後、妓女の玩具おもちゃにされた古峰は、バッチリメイクのまま過ごしていくことになる。



 張り部屋に居た古峰に指名が入るほどの変貌ぶりに


 (なんか負けた気がする……) 仲の町を歩く梅乃と小夜は落ち込んでいた。



 「梅乃~ 小夜~」 呼ぶ声が聞こえ、二人が振り向くと


 「何、しんみりと歩いているのよ~」 声を掛けたのは鳳仙である。



 「鳳仙花魁……」 梅乃が小さい声で言うと、

 「さっきから何なのよ~」


 鳳仙が茶屋に誘い、梅乃と小夜の三人でお茶を飲む。


 「……それで、負けた気になっているの?」 鳳仙は呆れた顔をしている。



 「はい……」 梅乃と小夜は ため息をつく。



 「あのね……まだ子供のお前たちが容姿ようしを気にしてどうするの? これからさ」 鳳仙が梅乃たちに言葉を掛けていると、



 「本当にそうだ! 女の魅力は大人になってからが勝負さ!」

 そう言って、話しに乱入してきた妓女がいる。



 「喜久乃きくの花魁おいらん―」 梅乃と小夜が驚くと、


 「あんれ? 喜久乃……」 鳳仙も驚き、声を出す。


 「水臭いぞ、鳳仙……なんで教えてくれなかったんだい?」


 「いえ……ちょっと、やる事が多くて。 あはは……」 鳳仙が笑って誤魔化そうとすると、


 「本気で心配したんだぞ」 そう言って、喜久乃はそっぽを向く。


 「ごめん……」 鳳仙はショボンとする。



 「……わかりました。 これだけ思われる鳳仙花魁のように女を磨きます」

 梅乃と小夜に元気が沸いてきた。



 「そうさ、その意気だ」 喜久乃が言う。



 「ところで、これからどうするんだい?」 喜久乃が鳳仙に聞くと、


 「う~ん……考えちゃうよね~。 鳳仙楼での仕事は無いし、花魁なんて肩書きも無くなる……」 鳳仙は下を向く。



 「り手はどうだい? お前なら出来るだろう?」 喜久乃がすすめると、

 「そうね~ 結局、吉原から出られないのかね~」 鳳仙がため息をつく。



 そんな会話で過ごした後、梅乃と小夜が三原屋に戻ると

 「潤さん……?」 梅乃が首を傾げる。



 「あ~ あれね♪」 小夜がニコニコする。


 「何? どうゆうこと?」 梅乃が聞くと、

 「潤さん、鳳仙花魁が好きで 久しぶりに顔を見たら あぁなっちゃったの……」

 小夜は嬉しそうに話す。



 (意外に恋愛とか興味あるんだよな~ 小夜……) 梅乃は、少し先を行かれている気がしてならなかった。



 数日が経ち、鳳仙が主人と話しをしている。


 「やっぱり出ていくか……」 鳳仙楼の主人が肩を落とす。


 「厄介やっかいばらいが出来たでございましょう……?」 鳳仙は、少しの寂しさを覚えつつ、主人に頭を下げる。



 「これからどうするんだい?」 


 「私は、外の世界を知りません。 病院で手術を受けた時、初めて外を見ました…… これから視野を広げる為に、頑張っていこうと思います」


 鳳仙の言葉に、主人は嬉しさ半分、寂しさ半分の笑顔を出すと、

 優しい笑顔から涙が溢れていく。



 「お父様……」 鳳仙は主人の顔に手を伸ばし、指で涙を拭いていく。


 「最高の親孝行の娘だよ」 そう言って、主人は鳳仙を抱きしめた。



 後日、鳳仙の旅立ちの時がやってくる。


 鳳仙は、今までお世話になった場所に挨拶をしていく。

 「お世話になりんした……」 一軒、一軒に丁寧に挨拶をすると



 「鳳仙花魁……」 野菊は涙ぐんでいた。


 引手茶屋への挨拶を済ませると、

 「最後はここか……」 鳳仙は、三原屋の玄関を叩く。



 「ごめんください……」 鳳仙が声を出すと、片山が戸を開ける。


 「鳳仙花魁……」 片山の顔が赤くなる。


 「今日は最後の挨拶に来ました」 

 「最後……」 片山は察したようだ。



 片山が鳳仙を中に通すと、沢山の妓女が鳳仙を見つめる。


 そこに采がやってきて、

 「鳳仙花魁……どうやら覚悟が決まったみたいだね~」 声を掛けると


 「はい。 それで、最後の挨拶を……と思いまして」 鳳仙は真っすぐに采を見つめる。


 「そうか、吉原を出るか……」

 「はい……」



 「鳳仙花魁―」 梅乃が気づき、駆け寄る。


 「梅乃……本当にありがとう。 私は、お前の言葉で手術を決心して……こうして生きていられるのは梅乃のおかげだよ」


 そう言って、鳳仙は梅乃を抱きしめた。



 そこに菖蒲と勝来もやってくると、

 「鳳仙花魁……」 言葉にならない声だ。



 「菖蒲、勝来……玉芳花魁と一緒の頃からの馴染なじみだったね……今までありがとう」 鳳仙が頭を下げる。



 「寂しくなります……」 菖蒲と勝来も頭を下げた。



 鳳仙が三原屋を出ようとすると、片山が玄関の外に立っていた。


 「鳳仙花魁、お元気で……」 片山は泣いていた。

 「……」 鳳仙は立ち止まり、『ぎゅ』と握りこぶしを作る。



 そして鳳仙は空を見上げ、

 「吉原はへいやドブに囲まれてありんすが、空は繋がっているもの……」


 片山は息を飲む。


 「いつかは、外で逢いたいものでありんすなぁ……」

 鳳仙が着物の中から一枚の紙を出すと、そこに口紅を押し付け



 「これ、予約証に ありんすっ……」 鳳仙が笑みを出すと、片山に手渡す。


 呆然として受け取った片山は、鳳仙から目を離せなくなっていた。



 「好いてくれて、ありがとう……では、おさらばえ……」

 そう言って、鳳仙は去っていった。



 その後、片山は仕事に集中できず采に頭を叩かれていた。


 小夜と古峰が片山を揶揄からかい、場は笑いへと変わっていく。



 そんな中、梅乃は『花魁とは何か』を考え始めていく。



 春になり、梅乃と小夜は十二歳となった。


 相変わらずの二人だが、今年は古峰を含めて三人で桜を見に来ては

 “ニギニギ ” をしていた。


 「みんな、よくな~れっ!」 これが三原屋の禿、三人の合言葉になっている。



 そこに、一通の頼りが届く。

 鳳仙からであった。



 その内容は、玉芳の主人である大江の空き小屋を使って『手習い所』を作ったという内容であった。


 しかし始めたものの、集客はかんばしくないとも付け加えられている。



 これを読んだ采は、キセルを吹かせていた。


 「ねぇ、お婆……何て書いてあったの?」 梅乃が聞くと、


 「自由に空を飛んでいる鳥のようだってさ……」

 そう言って、采は空を見つめていた。



 同じように手紙は鳳仙楼や長岡屋にも届く。


 「そっかぁ……やるな~」 喜久乃は、嬉しさが込み上げていた。


 何をしたいとか、自由になりたいとかではなく


 “吉原から外へ足を踏み出す ” ことが妓女たちの憧れである。



 年季を終え、自由になって吉原を出ることを夢見る。

 そんな憧れを玉芳や鳳仙がやってしまった。



 喜久乃にも気合が入っていく。



 「鳳仙……」 鳳仙楼の主人も、手紙を読んで涙ぐむ。


 いくら妓楼を離れたとはいえ、親子のように時を過ごした事実は変えられない。



 娘の成功を祈るかのように手紙を大事にしまっていく。



 手紙が吉原に着くころ、鳳仙は手習い所のチラシを持っていた。


 そして、道往く人にチラシを配る。



 「ここの部屋で手習い所を始めました~ よかったら見ておくんなんし……」 

 鳳仙が頑張ってチラシを配っていると……



 「アンタね~ 「おくんなんし……」はダメよ。 その言葉が通じるのは吉原だけよ~」 


 そう注意するのは玉芳である。



 「なんだい……ケチつけるのかい?」 鳳仙が睨むと、


 「あら、文句言う訳? 家賃とるわよ」 玉芳がニヤッとする。



 「――っ」 黙ってしまう鳳仙である。


 「まぁ、ここからなら病院も近いし安心だわね」 


 「うん。 本当にありがとう……」 



 「しっかり佳にも教えてやってね♪」


 玉芳の言葉に頷く鳳仙であった。


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