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第二十八話 眠れぬ夜に

 第二十八話    眠れぬ夜に



 玲が梅乃と知り合い、仲良くなって半月になる。


 「おはようございます。 玲さん……」

 梅乃だけでなく、小夜や古峰も仲良くなっていった。



 「梅乃ちゃん、しばらく忙しくなるから昼間に会えなくなるかも……」

 玲の言葉に、梅乃たちは残念な顔をする。


 (そうだよな…… 私たち禿とは違って、妓女は生活がかっているからな……)

 梅乃は理解していたが、何かを気にしていた。



 そして夕方、梅乃と小夜が引手茶屋に向かっていく。


 勝来と菖蒲の付き添いである。



 「こんばんは……」 


 茶屋で勝来が客と話しをしていると、梅乃は野暮やぼをしないように席を外す。

 しばらくの時間は、茶屋の二階から仲の町を眺めて時間を潰すのが当たり前になっているのだ。



 (おやっ? あれは玲さん?) 梅乃は仲の町を歩いている玲を見つける。



 長い髪が特徴である妓女だが、玲は髪が短くしているので見分けがつきやすい。 そんな玲が一人で歩いている姿が不思議だった。



 「姐さん、ちょっと外していいですか?」 梅乃が付き添いできていた菖蒲に言うと、茶屋の外に走っていく。



 「ちょっと、梅乃っ!」 菖蒲が呼び止めるも、梅乃は颯爽さっそうと出て行ってしまった。



 「まったくも~」 菖蒲が困った顔をすると、

 「そろそろ行きましょうか? 姐さん」 勝来が菖蒲に言う。


 「どうかしました? 姐さん」

 菖蒲が頬を膨らませ、怒っているのに気づくと



 「どうもこうもないわよ! 梅乃が走って何処かに行ったのよ~」


 菖蒲の額がピクピクしている。



 菖蒲は真面目な優等生、どこか外れた行動が許せないタイプである。


 「まぁまぁ……」 そんな菖蒲をなだめる勝来とのバランスが良かった。

 勝来は武家の娘であり、気位は高いが傲慢ごうまんではない。

 少し抜けている所も魅力的であった。



 「しかし、困ったわね~ 酒宴に間に合えばいいけど……」 勝来も困っていたのは他ならない。



 「後で、お婆から説教をしてもらわないとね~」 菖蒲が言うと、


 「もう……行こうか?」 客はしびれを切らしているようだ。



 「すみません……」 勝来と菖蒲はびて三原屋に向かっていったのである。



 梅乃が玲の後を追うこと数分、玲の後ろ姿を捕らえたが

 (なんか雰囲気が違うな……いつもより歩き方が男っぽい) 梅乃は玲の姿に違和感を覚える。



 すると、玲は大門の前まで来ていた。



 しばらく大門を眺めると、クルリと引き返す。


 (―まずい……) 梅乃は違う方を見て、誤魔化していると



 「梅乃ちゃん?」 玲は梅乃を見つけ、話しかけてくる。

 「れ、玲さん、こんばんは」 焦った梅乃は、慌てて挨拶をした。



 「こんな時間に珍しいわね? 今日は暇なの?」 玲が聞くと


 「いえ、そういう訳じゃ……」

 (玲さんを見つけ、勝手に尾行してたなんて言えないよな……)



 「私、これから仕事だから……じゃね~」 玲は、そそくさと水道尻の方へ歩いていった。



 「私、何やってんだろ? ―はっ、戻らないと」 梅乃は走って三原屋に戻っていったが、



 「お前、何をしたか分かっているんだろうね?」

 采が鬼の形相で立っている。



 その後、梅乃は一時間の説教を受けてから板の間の掃除をさせられていた。



 「お腹すいた~」 梅乃は宴席に入れず、夕飯はなし。 空腹感に襲われていた。



 そして、空腹のまま梅乃は就寝となる。

 『ぐうぅ……』 梅乃の腹が鳴り、なかなか眠れなかった時刻



 「梅乃……」 横になっている梅乃の耳元で菖蒲が声を掛ける。


 「姐さん……」


 「これ、食べな。 お婆には内緒よ」 菖蒲が持って来たオニギリを梅乃は受け取った。


 「ありがと~ 菖蒲姐さん……」 梅乃が涙目でオニギリを頬張っていく。




 翌日、 「潤さん、おはようございます」 梅乃と小夜が、外で掃除をしている片山に挨拶をすると


 「おはよう。 また、ここを頼めるかい?」 そう言って、片山はホウキを梅乃に渡す。



 掃除を終えた梅乃と小夜が古峰の仕事を手伝い、三人の時間が空くと散歩に出かける。



 そして、仲の町の花の咲いていない桜の木を見つめて “ニギニギ ” をしている。



 朝の仲の町は静かである。


 客も朝早くに帰宅し、妓女たちは昼見世の時間まで深い眠りに入る。

 この時間が禿たちの自由時間となっているのだ。



 「あれ? あそこに、この前のカッコイイ姐さん……」 古峰が玲に気づく。



 (本当だ……昨日から忙しくなると言っていたけど、こんな時間に外を? それも大門から水道尻の方へ向かう? 何をしていたんだろう?)


 梅乃は首を傾げた。



 それから意識をして大門付近に来ては、玲を探していた。


 数日後、ようやく梅乃の努力が実る。


 ある日、遠くから玲が大門に向かう姿を見つけ、静かに尾行をしている。


 玲は大門の前に立つと、四郎兵衛会所の様子を見ては江戸町二丁目の方向に向かった。



 しばらくすると、大門に数人の男性が来て吉原をウロウロしてから大門を出て行く。



 (あれ? さっきの…… 一人、多いな) 梅乃が気づくと、走って大門に近づく。



 そして、男性が話しながら歩いている後ろ姿を見て、

 (あの中に玲さんがいる……)


 梅乃は、男性の中に玲が混じっているのを見逃さなかった。

 (それで髪を短くしていたのか……)



 吉原では、男性の出入りは自由であるが 女性の出入りは出来ない。

 足抜あしぬけがあるからだ。


 簡単に脱走されては妓楼のメンツに関わる。

 借金も反故ほごにされる危険がある為、四郎兵衛会所に頼んでいるのだ。



 そこには厳しい目が光っており、いくら過去に食事を奢ってもらった梅乃でも大門を出ることは許されない。



 (あの厳しい目を、いとも簡単に……?) 

 梅乃は、玲が男装をして大門を自由に出入りできる驚愕きょうがくの事実を知ってしまったのである。



 三原屋に戻ってきた梅乃は、采に出来事を話す。



 「ねぇ、お婆……男の恰好をして吉原を出た人っている?」


 「昔、居たよ。 ただ、四郎兵衛会所も馬鹿じゃないからね……上手く見抜いて捕まえていたよ」 采が昔の話しをしていると、



 「玲さん、変装して出て行ってた……」

 梅乃が話すと、采の顔色が変わる。




 数日後、梅乃は引手茶屋に来ていた。

 菖蒲の付き添いである。



 菖蒲が客と話しをしている時間、梅乃が外を見ていると玲が歩いている。


 (玲さん……)



 玲は水道尻の方へ向かい、歩いていく。 


 (外出から戻って、見世に戻るのかな?) そんな風に思い、そのまま玲を見ているしかなかった。



 三原屋での宴席、梅乃も参加していた。


 どこか上の空で会話が耳に入らない梅乃に菖蒲が声を掛ける。

 「ちょっと梅乃……」



 「―はっ! すみません」 梅乃が菖蒲に謝ると、

 「しっかりしなさいよ」 菖蒲は息を落とす。



 「菖蒲ちゃんは真面目だから……」 客も笑っていた。



 梅乃が就寝時間になり、布団に入ると小夜が話しかける。

 「梅乃……あんまり首を突っ込んじゃダメだよ」 


 「うん、おやすみ……」 梅乃は返事をして布団を頭まで被せた。



 大部屋の片隅、禿の三人が布団を並べて寝ていると


 (やっぱり眠れない……) 梅乃はガバッと起き上がり、

 「お婆……眠れないから散歩してきていいですか?」 



 「お前は気になったら眠れないもんな…… でも、あんまり外をウロウロするんじゃないよ! 酔ったヤツや、変なヤツがいるからね」 そう言って、采は見送った。



 夜中、梅乃が見世の外に出ると酒宴の声が響いていた。


 (姐さんたち、頑張っているんだな~) 賑わう妓楼を眺め、梅乃は身体を涼ませていたが、


 そのまま梅乃の足は水道尻の方へ向かっていた。




 (こんな方まで来ちゃった……) 気が付くと、かえで屋の前に来ていた。



 かえで屋や、周りの見世は小見世が並び静かである。

 客の目的は酒宴よりも体目当ての客ばかりであり、酒宴で盛りあがる見世は少ない。



 (玲さん、こんな場所だなんて勿体ないよな~) 梅乃は、大見世がならぶ場所と比較をしていると



 「ありがとうございました~」 玲の声が聞こえる。



 (玲さんの声……) 梅乃はヒョコッと覗き込む。


 「さて…… 荷物を運ばないと」 玲は、見世の中に入っていく。



(こんな時間に荷物……?) 梅乃は不思議に思い、しばらく様子見をしていると


 男性客が、かえで屋に来た。



 玄関に出てきた玲が対応し、周囲をキョロキョロして確認をし始めると



 (マズい―) 梅乃は咄嗟に隠れた。

 玲が客を見世に入れ、中に入っていく。



 (私、何をやっているんだろ?) 自分の行動が馬鹿らしく思ってきた時、先程の客が見世を出てきた。



 (こんなに早く? 十分程度だよ?) 梅乃は、何人もの夜伽よとぎの話し声や営みを知っている。 そんな中で育ってきているからだ。



 気になるものの衝動が抑えられない梅乃は、男性客の後を尾行する。


 男性客は一人で歩いている。

 ただ、見世に来た時は何も持っていなかったが、帰りは木箱を持っていた。



 現在で言う野菜などが入った段ボールほどの木箱を抱えた男性客は、大門に向かって歩いていく。



 男性客は周囲を見渡すと路地裏の狭い所に向かい、しゃがみ込んだ。



 (何してるんだろう?) 梅乃はそっと近づき、ヒョコッと覗いてみると



 男性は木箱の中の拳銃を見つめていた。

 (拳銃? どうして?) 梅乃が驚き、急いで帰ろうとすると


 「―こら、このガキッ!」 男性客が追いかけてきて、梅乃の腕を掴んだ。



 「ごめんなさい。 ごめんなさい……」 梅乃が謝ると、

 「何を見た?」 男性客が言う。


「何も見てません。 箱だけです」 梅乃が必死に弁解をする。

「本当か?」 しつこく男性客が聞くと、



 「ピストル……」 つい、言ってしまった。


 「そうか…… コッチに来な」 男性客が箱と梅乃を担ぎ かえで屋に来た。



 男性が、かえで屋の玄関をノックすると玲が出てきた。


 「あら、荷物は間違いなかったわよね……って、梅乃ちゃん??」

 玲は驚いていた。 こんな時間に梅乃が外に居るとは思わず、玲は目を見開く。



 「このガキ、見ちまった」 男性が言うと、

 「仕方ないか……」 玲は、ため息をつき 梅乃を見世の中に入れる。



 「さて…… 困ったわね……」 玲が梅乃を見て困った顔をする。



 そして縄を取り出し、梅乃をしばった、


 「梅乃ちゃん、少しの辛抱よ」 玲は、何故か寂しい顔を梅乃に向けている。



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