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第二十六話  按摩《マッサージ》

 第二十六話    按摩マッサージ



 秋、日暮れも早くなってきた頃である。


 「なんか寒くなったな……そろそろ火鉢を出した方がいいんじゃないか?」

 客が妓女に言うと、


 「まだお婆が良いと言わないのよ~。 布団で温まりましょう」

 そんな会話が出てくるようになっていた。



 「ふぅ 肩がるわね~」 菖蒲が肩を叩いていた。

 「みますよ、姐さん」 小夜が菖蒲の肩をトントンと叩いていく。



 三原屋の玄関前では、片山がチラシを受け取っていた。

 「これは?」 片山が不思議そうにチラシを覗き込むと


 「按摩あんまですよ。 今ではマッサージとも言うらしいので……」

 チラシを持って来た男性が説明をしている。



 「こんなのが吉原に……」 時代の変化を感じ取っていた。



 そして三原屋では、

 「へ~ 珍しいのが出来たものだね~」 采も驚いている。


 「そうでしょ。 お婆も行ってみたらどうです?」 片山が言うと


 「私も肩が凝ってきているからね~ 行ってみるか」 采はニヤッとして、早速、按摩の見世に向かった。



 「いらっしゃいませ」 中から声がすると、若い男性が出てくる。


 「ここは按摩かい?」 采が慣れない雰囲気にオドオドしていると

 「そうですよ。 ささっ、どうぞ」 若い男性は、奥の布団まで案内をする。



 そして施術が始まる。


 「お客さん、ってますね~」 と、言いながら肩を揉んでいく。



 「うっ! そこ……」 采から声が漏れる。


 開始から三十分が過ぎた頃、

 「終わりました」 若い男性が言うと


 「スッキリしたよ。 また来るわ」 采はご機嫌で帰っていった。



 しばらくして、

 「お婆~ 按摩、どうでした?」 信濃が采に感想を聞いていた。



 「良かったよ。 お前も行ったらどうだい?」


 「そう、行ってこようかな~」 信濃は着替え、按摩の見世に向かったが



 「あら、凄い行列……」 信濃は行列が出来ていた為、諦めて妓楼に戻っていった。



 そして数日後、噂を聞いた梅乃たちは外から按摩の見世を眺めている。


 見世を後にする客は、 「あぁ気持ち良かった~」 と、言っていたのを見ていた小夜が

 「そんなに気持ちいいんだ~ 私もやりたいな~」 などと言うようになった。



 翌日、梅乃は一人で見に来ていた。


 すると、一人の妓女が見世から出てきて

 「クソッ」 と、言う言葉が出てきたのが耳に入る。



 「あの……どうしました?」 気になることに首を突っ込んでしまう梅乃の悪い癖が出てしまった。



 「どうもこうもないよ! 足元を見やがって」 理由は分からないが、妓女は腹が立っていた。


 これ以上の深入りは出来ず、梅乃は按摩の見世の外から眺めている。



 すると、先程まで開いていた窓が閉まっている。


 (これじゃ、中が見れないな……) 梅乃は諦めて、時間を置いて仲の町をウロウロしていた。



 「梅乃じゃないか?」 声を掛けてきた女性がいる。

 梅乃が振り向くと、そこに立っていたのは喜久乃であった。


 「喜久乃花魁、こんにちは」 梅乃が笑顔で頭を下げると

 「どうしたんだい? こんな時間に一人かい?」



 「はい。 なんか流行りの按摩の見世を見ていたのですが、急に窓が閉まりまして……」 梅乃が説明すると、


 「急に窓が?」 喜久乃の顔が険しくなる。



 「どうかしましたか?」 梅乃が聞くと、


 「なんか変じゃないか? 施術中に急に窓を閉めるって……」 喜久乃が言うと、



 「……」 梅乃は黙ってしまった。 梅乃は、まだ子供である。 よく分かっていなかったのだ。



 「何かありそうだね。 行ってみるか」 喜久乃は、梅乃を連れて按摩の見世までやってきた。



 すると、妓女が見世から出てきた。



 「おい、そこの」 喜久乃が、見世から出てきた妓女を引き止める。



 「はい? なんでしょうか?」 妓女は立ち止まり、喜久乃を見ると


 「お前さん、見世の窓が閉まっている時間、何をしてた?」

 喜久乃が聞くと、妓女は『ギクッ』とした。



 「どうしたんだ? 何があった?」 喜久乃が凄むと、妓女は

 「なんでもありません」 そう言って、走って行ってしまった。



 (なんか変だな……) 喜久乃は、妓女を目で追っていた。



 「梅乃、今度はお前が行ってきな」 喜久乃が言うと、

 「私ですか? お金なんてありませんよ」


 「私が出してやる。 そこで何があるのか探っておいで」 喜久乃は、梅乃を見てニヤッとする。



 そして後日、梅乃と喜久乃が待ち合わせをした場所で顔を合わせた。


 「よし、行っておいで」 喜久乃に押されて見世の中に入っていく梅乃。

 (裏の窓は開いたままだな……) 喜久乃が施術の部屋を確認していると、



 「こりゃ気持ちいいです~」 梅乃が見世から出てきた。



 「おい、どうだった?」 喜久乃が梅乃の表情を確認すると

 「身体の疲れが飛んでいきました~」 梅乃はご満悦であった。



 「う~ん……」 喜久乃は困った顔をしている。

 ただの按摩なのか? そんな考えが、行ったり来たりしていた。



 何日かすると、按摩師の悪い噂が流れはじめることに

 「聞いた~? あの按摩師、人を見て金額をり上げるのよ……」


 これを聞いた梅乃は、喜久乃がいる長岡屋に来ていた。



 「それで、どうだった?」 喜久乃が聞くと、


 「なんか、聞いた話しだと値段を吊り上げるみたいです」 梅乃は聞いたままを話す。



 「なるほどね…… なら、私が行くかね」 喜久乃が立ち上がり、支度をする。




 そして、按摩の見世の前に来ると

 「梅乃、窓が閉まったら長岡屋の主人を呼んできておくれ」



 喜久乃が言ったように、梅乃は施術の部屋の窓を見張った。

 すると、バタンと音がして窓が閉まった。



 「行かなきゃ!」 梅乃が長岡屋に走りだす。



 「こんにちは」 梅乃が元気に挨拶をして、長岡屋の主人に説明をすると


 「なに? おい! 行くぞ」 そう言って、長岡屋の主人は若い衆を連れて按摩の見世に走って行った。


 梅乃も一生懸命に走って後を付いていく。



 そうして、按摩の見世の前に着くと

 “ ガシャン! ” と、何かが割れるような音がした。



 「なんだ?」 長岡屋の主人が驚くと、若い衆が見世に入っていく。


 「えっ?」 長岡屋の若い衆が施術の部屋に入ると、異様な光景を目にする。



 そこには怒りに満ちた喜久乃と、下半身が裸の男性がにらみ合いをしていた。



 「花魁!」 若い衆が声を掛けると、

 「待ってな!」 喜久乃は若い衆を制止する。



 「さぁ、説明してもらおうか? どうして金額を倍以上にした挙句、払わないと言ったら身体で払えと?」 喜久乃は怒りで手が震えていた。



 「違う、何かの間違いだよ。 それ花魁が来るなんて……」 按摩師は、しどろもどろに言い訳をしている。



 そこに、 「花魁、連れてきました~」 

 小夜と古峰が、按摩師から被害にあった妓女を連れてきたのである。



 「お~ よくやった」 喜久乃がニヤッとする。


 「さぁ、言ってやって」 喜久乃が合図すると



 「私が施術をされてからです。 金額が増えて払えない金額になると身体を要求してきました。 それで仕方なく身体で払うと、正規の値段を後から払わせられたのです」


 妓女が話しだすと、按摩師の顔が青くなっていく。



 「……だそうだ。 何が間違いだ、この野郎!」

 喜久乃が雄叫びを上げると、按摩師の顔に拳を突き立てた。



 後ろに吹っ飛んだ按摩師は、壁にもたれるように座ったままになった。



 「吉原を舐めるんじゃないよ!」 喜久乃の言葉は、花魁として吉原の妓女を守る為の言葉であった。



 「さすがだな~」 梅乃は、花魁の資質を喜久乃から学んでいく。



 この噂は一瞬で吉原を駆け巡り、按摩師は逮捕されるのであった。



 これに采は、

 「ありゃ、何か裏があると思っていたのさ~」 上機嫌でキセルを吹かせていた。




 (何回も、気持ちいい……と、言ってたクセに……)

 妓女は思ったが、怖いので心にとどめておくことにした。



 今回の一件で、少し按摩にも興味を持った梅乃は、古峰を練習台にして按摩をしていた。


 「どうですか? お客さん……」

 「……」 古峰は無言だったが


 「何もないなら辞めますね~」 梅乃が言うと

 「……辞めないで……」 そう言って目を細める古峰であった。


 (猫かよ……)


 それから梅乃は按摩上手になり、妓女からも指名が入ることとなる。



 「うへっ♪ 貰った♪」 梅乃が小夜に、貰った簪を見せびらかしていた。



 そして数日後、

 「ただいま戻りました」 玄関で声がすると、梅乃が急いで向かう。



 「梅乃ちゃん、ただいま」 赤岩である。

 「おかえりなさい」 梅乃はニコニコしていた。



 「それで、鳳仙花魁はどうですか?」 梅乃が聞くと


 「まず、お婆に報告だ。 一緒に行こう」 そう言って、赤岩が采の部屋に向かった。



 「ご苦労様。 それでどうだったかね?」 采はキセルを咥えて赤岩の話しを聞いた。


 「はい。 確かに岩でした。 無事に取り除きましたが、今後の転移とかが気になります……」


 「そうか……まずは休んでおくれ。 それから仕事に入ればいい」

 采は赤岩をねぎらい、その夜の食事は豪華なものだった。



 「随分と豪華ですな~」 赤岩が驚くと


 「そりゃ、鳳仙楼からタップリと払って貰ったからね~  ウシャ ウシャシャ……」 采の高笑いに


 「……」 梅乃と赤岩は絶句していた。


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