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2.不機嫌な昼下り


 七菜子はコンバットブーツを履いただけでトレーラーから降り立った。


「お疲れ様です」

 私は視線を落として挨拶し、そっと七菜子の肩にバスタオルをかけた。


 手を取って強化外骨格パワードスーツに導こうとしたが、彼女は「じゃま」とひとこと言って振り払った。


 “セブンス”専用のパワードスーツは、陰で“マッサージチェア”と呼ばれている。

 待機状態の形状がそっくりなのだ。

 彼女たちを身体の衰えた偏屈な年寄りに見立てた皮肉でもある。


 七菜子はタオルで長い髪をグシャグシャ拭いただけで、背中からパワードスーツに倒れ込んだ。

 骨格を支えるパッドが、白い裸体を覆うように展開し、関節を中心に包み込んでいく。


「で、そいつは?」

 と新入りに向かってアゴをしゃくった。

 スーツを起動させ、無骨な機械音とともに立ち上がった。

 彼女は私たちより三〇センチほど背が低い。体重は半分ちょっとだろう。


「俺は武村だ。聞いてんだろ?」

 新入りの元自衛官は、強張った表情で右手を差し出した。


 まずい。


 “必ず敬語を使え”という私の指示を無視した。


「なにい?」


 七菜子も同じように右手を差し出したが、その手にはでかい拳銃が握られていた。

 パワードスーツが動き、彼女の右腕全体と両耳を護った。

 そのまま、ためらいなくトリガーを絞った。

 

 バンッ!

 という爆音が響く。


 撃ったのは、彼女が愛用するデザートイーグル.50AEだ。

 武村が素早く手を引っ込めて半身を切っていなかったら、手首から先と脚の一部が吹っ飛んでいただろう。


 七菜子と武村が同時に怒鳴り始めた。


「テメー!タメ口ききやがって!」

 七菜子は癇癪を起こしている。


 武村は至極もっともな抗議をしているが、私が遮った。

 「バカヤロー!」と頭ごなしにしかりつけ、無理やりトレーラーに押し込んだ。


「お前が悪い。後で謝れ」

 私は胸ぐらをつかんで揺さぶった。


「あのガキ、撃ってきたんですよ?」

「分かってる。でも悪いのはお前の方だ」

「なんで…」

「彼女を怒らせたからだ」


 私は武村をトレーラーに閉じ込めると、七菜子のところに戻った。


「すみません。あいつ反省してて、後で謝りたいそうです」


「知るか!」

 と不機嫌に言うと、七菜子は拳銃をぶら下げたまま、「行くぞ」と背を向けた。


「さっきの銃声で、虫が集まってきてる。ったく役立たずが、つまんねえ騒ぎ起こしやがって」


 私は自分の八四ミリ無反動砲を担ぐと、七菜子を追って地下に向かう階段を下った。


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