表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/16

12.現実世界へ


 私は底しれぬ暗闇に放り出された。音も光も一切の感覚がなく、上も下もない。


 パニックになりかけたが、頭を覆うインターフェースのヘッドギアから伸びたコードの束をたぐり寄せた。


 聞こえるのは心臓の鼓動。

 そして感じるのは、熱い血流だ。


 私は怒りに任せて何度もアイソレーション・タンクの天井を殴った。


 すぐに銀色の蓋が開き、救いの手が差し伸べられた。

 人工羊水を突き破って空中に頭を出すと、美輪みのわ管理官の丸顔と鉢合わせになった。


「お帰り!

 あなたを置いて逃げようか、相談してたとこよ」

 笑顔だが、緊張しているのだろう。珍しく顔がこわばって、目を見開いている。


 彼女の後ろに、汗に光る光山部長のハゲ頭も見えた。


「どうした?」

 私はアイソレーション・タンクの外に這い出した。

 ふらついて滑り落ちそうになったが、美輪管理官に支えられた。


「ブラッドワームが東京駅の地下、あたしたちの真下に集まってきてるのよ。

 一万匹くらいが不規則に泳ぎ回って、てんでバラバラ。群体としての行動予測ができない!

 なのに、あの子たちは誰も起きてこない」


 ファンタジアと東京が、同時にブラッドワームから襲撃を受けようとしている。

 時間がない。


「よく聞いてくれ」

 私は彼女の両肩を掴んだ。


「ファンタジアに侵入したハッカーがいる。

 名前は“ゴルディアス”。

 もちろんハンドルネームだろうが、仲間もいる。少なくとも十人。

 公然情報オシント通信傍受シギントの記録を探ってくれ。

 そいつは俺たちと同じ原理のインターフェースを使ってる。消費電力がハンパないはずだ。

 それから、セブンスのこと、潔子のことを知ってて、多分だが、アイソレーション・タンクの技術を盗用してる。

 つまり、

 …俺たちガーディアンの関係者か周辺者だ。退職者の可能性もある」


「分かった。出向者チームを集めてすぐ手配する。警察庁をヘッドにするわ。

 あなたは?」


「潔子と話がしたい」


「分かった」

 美輪管理官は笑って私の尻をピシャリと叩いた。

「その前に、服を着なさい。いい体してるのはもう分かったから」




 潔子は東京ガーディアン別棟に併設した医療センターの病室にいた。


「潔子さん」

 私が話しかけると、薄く目を開いた。


 彼女は一日でげっそり消耗して、死期が迫った老女のようだった。


「純吾」


「はい」


「あたしはきれいだったのよ」


「今もですよ」


「うるさくて死にそうなの」


「大丈夫です。ファンタジアを取り戻します」


「七菜子を守って」


「はい」


「あたしを忘れないで」


「はい」


 潔子のアバターを壊してしまったことを謝ろうと思っていた。

 だが、何も言えず、病室を出た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ