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六条御息所、『源氏物語』よりあくがれ出でて悪役令嬢に転生する  作者: 中臣悠月
第一章 シナリオライター、『源氏物語』の世界に入り込む
9/12

7 体に戻って来た六条御息所と会話しつつ千年前のざまぁを考察する

「えっ、まさか……六条御息所さま――!? 六条御息所さまの魂がお体に戻られた!?」

「はい……、えっ……、頭の中で声がする――? あなたはいったい……?」

 

 二人の魂が一つの体に入る――こんなことが起きるなんて。

 物語やゲームの登場人物に憑依や転生――これは、最近のWEB小説やマンガでよく見る展開だ。しかし、どうやら今、私が体験しているのは、あまり見たことがないちょっと変わったケースのようだ。

 

 さっきまで、この体の中には誰の魂も存在しなかった。

 なぜなら、この体の主である六条御息所の魂が体から抜け出て、葵の上に取り憑いていたためである。

 主不在の体に、私の魂が入り込んでしまっていた。

 入り込んだ理由はよくわからない。

 が、光源氏とかいうクソ男に対して怒りを抱き、六条御息所に同情していたせいだろうか。

 そして、異物である私の魂が入り込んだ体に、元の主である六条御息所の魂が今まさに戻って来た。

 現在、一つの体に魂が二つ、同居した状態になっている。

 生霊になりやすいという特異体質を持つ六条御息所の体に入り込んでしまったゆえ、このような珍しいケースが起きたのだろうか。

 しかも……頭の中で会話までしているのだ。


「私たち、魂同士で会話ができるみたいですね……?」

「ええ、そうみたいですね……。いえ、それよりも……あなたはいったいどこのどなたなのです? ここは、わたくしの体の中ですよね?」

「ええ、六条御息所様の体の中……だと思います」

「それに……わたくし、また体から魂があくがれ出てしまっていましたの? それとも、先ほどまで見ていた光景は夢だったのかしら? 愛らしい女君が目の前にいて……わたくしは、わたくしは……ああっ! なんだかその方にひどいことをしてしまった気がしますわ! わたくしが、あんなはしたないことをするなんて……信じられません。髪を引っ張り、押し倒しては馬乗りになって首を絞め……。あれは夢ですよね、どうか夢だとおっしゃってください」


 先ほど、葵祭で六条御息所が受けたひどい仕打ちを追体験したばかりだ。

 あの情景を体験した今となっては、六条御息所に情が湧いているため、そのようなことをしてしまっても仕方がないのではないかとすら思ってしまう。

 もちろん、ひどいことをされたら復讐すればよい、それですべて解決というわけではない。ないのだけれど、今の私は六条御息所を応援したい気持ちでいっぱいである。


 しかし、現代となってはお決まりのドアマットからのざまぁ展開──なのだが、生霊になって取り憑くとか、千年前の方が激しすぎて驚いてしまう。

 というか、世界で初めて「ドアマットからのざまぁ展開」を生み出したのは、我が国の女性。紫式部だったのか!?

 これが、世界最古の物語……。

 千年経っても人間はたいして変わっていないのだ。いや、それどころかざまぁしても単純にスッキリしないばかりか、最終的にどちらの女性も幸せになれないとか……、現代よりよほど深すぎる。

 これ、本当に千年も前の人間が考えついたストーリーなのか。

 新米のシナリオライターとして、およそ追いつけないだろう才能の違いに悔しさすら覚える。


 その後、国は違えど『シンデレラ』のようなかなり激しいR18指定グロ復讐劇を経て、現代のざまぁは随分とマイルドになったということか。


 と、頭の中でそんなことをつらつらと考察していて──「この考え、六条御息所様にも伝わってしまっていたらやばいのでは? 先の展開もちょっと考えちゃってたし!」と焦って考えを脳内から追いやり、六条御息所に声を掛けてみる。


「あの……六条御息所さま、大丈夫ですか?」

「ああ、どうしましょう……わたくしったら……」


 幸いにも──と言ってよいかはわからないが、六条御息所はまだ一人懊悩中で、私の脳内考察は伝わっていないようだった。

 混乱している六条御息所をまずは落ち着かせねばなるまい。


「六条御息所様、どうか今はすべて忘れて……そうだわ、まずは深呼吸しましょう」

「深呼吸……? すうっ、はあっ、ふうっ……こうでよいかしら? というか、先ほどから私の頭の中でする声、あなたはいったい何者なのです? わたくし……ではないですよね? それともわたくし、魂があくがれ出るうち二人に分裂してしまったのかしら?」

「……あ、失礼しました。質問にお答えしていませんでしたね。私は石山……あ、いえ、シナリオライターと言って、そうですね……何と言いますか……おそらくこの世界の外からやって来たのです」

「この世界の外……ですか──!?」

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