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婚約者の心の声が可愛過ぎて困っています  作者: りょう
第三部

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「私もしたいです」

 涙で濡れた顔を拭い、ティアラが顔を上げる。

(キス……あれからずっとできなかった。私もしたい。でも久し振りだし、ドキドキする……)

 同じ気持ちである事にほっとする。

 緊張しているのか、しきりに髪を触っている。

 ティアラ、照れていて可愛い……

「……その前に抱きしめてもいい?」

 俺の言葉にティアラがまた笑顔になった。

(はい! お願いします! 仲直りできて本当に良かった……)

 お願いしますって……

 ティアラの心の声に思わず笑ってしまう。

 ……さっきまでの暗い気持ちが嘘のようだ。

(あ……バート様、笑ってる! 嬉しい……)

 ティアラは少しはにかんでから俺にくっついてきた。淡い桃色の髪を撫で、自分へ引き寄せる。


 ティアラの心臓の音が聞こえ、言葉にできない幸せを感じた。背中に手が回ってきて、愛しい気持ちが強くなる。

 一方通行じゃない……

 確かめるように、その細い体を抱きしめた。


「ティアラ、温かいね」

 髪を撫でると、ティアラが目を細めた。

「子ども体温って言ってますか?」

「ち、違うよ。幸せだなと思って」

 こんなやり取りも久し振り。

「私も幸せ……」

 お互い、目が合って笑う。

(こんな風に話せて、いつもみたいに戻れて、良かった。ずっと怖くて話せなかったけど、バート様も不安だったんだと言ってた。悲しい思いをさせてごめんなさい。私、もっと頑張りますから)

 ティアラは頑張らなくていいよ……

 そのままの君が好きだから……


(早くキスしたいな……抱きしめられてるのも、幸せなんだけど。私からしたら、はしたないかしら)

 そわそわしている表情が可愛くて、困ってしまう。

 飛び込んできた思考にも動揺。

 して欲しい……

 ティアラからキス。……されてみたい。

 魅力的な提案だけれど、今回は俺から──


 頬に手を置くと、色白の肌が赤く染まった。

 急に早くなった心音を聞いて、嬉しくなる。

 赤くなるのは、俺が好きだから……?

 恥ずかしそうな表情も堪らない。

(バート様の瞳、本当に綺麗なサファイア……)

 うっとりと見られて、頬をくすぐる。

「目、閉じて……」

 そう伝えると、頬は更に赤くなった。


(でもバート様のキスの顔、見たい……格好良くて色気もあって。凄く好きな顔なんです。だから見せて? 目を閉じる瞬間も見たい……長いまつ毛が揺れる、あの瞬間が好き)

 流れる声を聞いて、目が点になる。

 も、もー。本当に困った子だな。

 恥ずかしくなりながら、目を閉じた。


 そっと唇を重ねると、甘い香りがする。

(大好きです。バート様!)

 ありがとう。いつも伝えてくれて──

 潤んだ目元をじっと見つめる。  


「好きだよ、ティアラ……」

 ニ度三度繰り返した。

「私も……んっ……」

 久し振りのキスに酔う。

 キュンとして、どうにかなりそう……

 泣きそうな程の幸せに身を委ねる。



「誰か残っているの?」

 抱きしめていると、ノック音と女の人の声が聞こえ、驚く。

 そういえば、下校の放送からだいぶ経っていた。  

「はい!」 

 返事をしてから、バッとティアラの方を向く。

『ティアラ! ボタンしめて!』

 前が開いたままだった事を思い出し、焦って口パクで伝える。

 ティアラはハッとしてから、大急ぎでボタンを閉めた。

 確認してから、慌ててドアを開けに行く。

 

「バーバラ先生……」

 ティアラが呟く。見回りの先生はティアラの担当の先生だった。

「すみません。つい話し込んでいて……」

 頭を下げ、鍵を取り出す。

「なんだ、レヴァイン君とルアーナさんだったのね」

 密室に二人きり。しかも鍵をかけたまま。何かしら注意を受けるかもしれないと身構えるが、現実は違った。

「暗いから、気を付けて帰ってね」

 和やかな笑顔で言われた。

(あらあら、ルアーナさんったら、涙の痕が……目も真っ赤だし。でも暗さが全然ない。仲直りできたのね? ずっと元気がないから心配してたのよ! 良かったわ〜)

 先生にまで心配をかけていたようで申し訳なくなる。


「ご機嫌よう」

 先生と別れた後、こっそり手を繋いで馬車まで戻った。


✳✳


 侍従のレイモンドは馬車の外で待っていた。

「遅くなって悪かった」

「ギルバート様!」

(あまりに遅いので、何かあったのかと思いました!)

「今日は何もご予定がないと言われていたから、心配しました」

「ごめん」

 レイモンドに困ったように言われ、再度、謝る。

「ご無沙汰しております。遅くなってしまい、申し訳ございません」

 ティアラが頭を下げると、レイモンドが目を見開いた。


(ティアラ様とご一緒だったのか! え? 今までお二人で? ご一緒されるのは、何日ぶりだ? 仲直りはできたのだろうか。あ! でも二人の表情も明るいし、もしかして?)

「ティアラ様もこちらに乗りますか?」

 すました顔でレイモンドが聞いてくる。

 ……うちの侍従達はどうして揃いも揃って、心配症なんだ。

 少し気まずくなりながら、口を開く。

「うん。こっちに乗るから、向こうに声をかけてくる」

 そう伝えると、レイモンドの顔がパッと明るくなった。

(ギルバート様、仲直り、おめでとうございます! 良かったですね! 皆、心配してたんですよ。帰ったら、旦那様や奥様、家令、メイド長、皆に報告しなくては!)

 レイモンドの浮かれた声が聞こえてくる。

 皆が心配してくれていたのは、分かっているけど……

「そうですか! では、中でお待ちください。僕がルアーナ邸の馬車に伝えてきます。少し冷えてきたので、中でお待ちください」

「私が──」

 ティアラが言い出すが、レイモンドは答えを待たず、行ってしまった。

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