表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者の心の声が可愛過ぎて困っています  作者: りょう
第三部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/142

96

「ごめんね、ティアラ」

 自分の不甲斐なさを謝る。

(『ごめん』……? もしかしたら言われちゃう……? 『もう終りにしよう』って。そんなの、嫌!)

 ティアラは目元を擦りながら、俺を見てきた。

「バート様は! 何も悪く……ないんです! あの……時は……っ。おど……ろいた、だけで……」

(バート様が好き。大好きなんです……お願いですから、『別れよう』なんて言わないで……)

 泣きながら必死に言われ、胸が痛くなった。

 こんなに追い詰めていたなんて……

「……バー、ト……様っ……ぅ。わ、私……」

(ごめんなさい。拒否したりして。もう二度と嫌がったりしないから、言わないで……)

 思い詰めた表情を見ているだけで、罪悪感に(さいな)まれる。  

 ──俺の態度のせいで、ティアラはずっと不安だったのかもしれない。


「泣かないで……」

 ハンカチでティアラの涙を拭くと、余計に涙が溢れてきた。

(子どもみたいに泣いたりして、きっと困らせてる。……でも、バート様はこんな時も優しい。やっぱり私、諦めたくない!)

 ティアラが俺の腕を掴んできた。

「バート……様が……好き……なんです……」

 瞬きをする度にダークブルーの瞳から涙が零れ落ちる。

 思えば、俺はずっとティアラに甘えていたのかもしれない。

 惜しみなく聞こえてくる素直な心の声や、一生懸命伝えてくれる思いや言葉を、たくさん貰い満たされていた。

 ──俺もちゃんと伝えたい。


「ティアラ、俺──」

「待っ、てください! もう少し……このままで……」

 遮られて、口を(つぐ)む。

(バート様、私、キスや抱きしめられているだけで幸せだったんです。バート様がその先を望んでるなんて、思いもしなくて……気持ちが追いつかなくて……怖くなって拒絶してしまった。最初は気まずくて……なんて伝えたらいいのか分からなくて。でも前みたいに戻りたい……二人でお喋りして、一緒に帰って、キスも……その先も……まだ少し怖いけど、バート様の側にいたい!)

 ティアラの気持ちが痛い程、流れてくる。


「泣かせてごめん」

 そっと手を繋ぐと、今度は振り払われなかった。

 俺はずっと心の声に頼り過ぎていたんだ。

 目が合わなくて、心の声が聞こえなくなれば、途端に好かれている自信がなくなる。

 ティアラは何度も伝えてくれていたのに。

「……抱きしめてもいい?」

 覚悟して聞くと、ティアラは黙ったまま、俺の胸に頭を寄せてきた。

 久し振りの温かい体温。そっと背中に手を回すと、なんだか俺まで目頭が熱くなってきた。


「俺もティアラが大好きだよ」

 そう伝えると、ティアラは俺の腕の中でワッと泣きだしてしまった。

 心を読むのは、簡単だ。

 目を見るだけで、自分への悪意も好意も分かるから、今まで相手の気持ちを本当の意味で知ろうとしていなかった。


「ティアラが好きで堪らなくて……触れたかった。でも怖がらせてごめん。俺、ティアラに嫌われたかもしれないと思ったら、怖くて上手く話せなかったんだ。ティアラの気持ちが追いつくまで、ちゃんと待つよ。……だから……一緒にいよう」

 ──拙くても、きちんと自分の本音で。

 目が見えなくて、心の声が聞こえなくても、言葉で伝えたい。

「……ごめ……ごめん、なさい……嫌いなんて! そんな……そんなわ……け、ない、で……す! わ、私もっ……大好き……」

 その言葉を聞いて、安堵して抱きしめていた手に力を込めた。


 ──いつから、こんなに心を預けていたのだろう。

 昔は誰も好きになれないと本気で思っていたのに。

 ティアラがいないと、駄目になるのは俺の方かもしれない。


「仲直りできて……嬉しい……です……」

 ティアラが泣きながら伝えてくれた。

「俺も……」

 もう多分、愛を知らなかった頃には戻れない。

 幸せでずっと抱きしめていた。


✳✳


『下校の時間です。校内に残っている生徒は速やかに下校しましょう』

 外はすっかり暗くなっている。

 校内放送が入り、ハッとした。

「……そろそろ帰ろうか」

「そうですね!」

(嬉しくて時間を忘れていたわ)

「俺の方の馬車に乗らない?」

 ドキドキしながら聞いてみる。

(バート様、緊張してるみたい。可愛い……)

 ティアラは嬉しそうに笑ってから、「はい」と言ってくれた。


 久し振りの笑顔……

 それを見たら、もう駄目だった。


「……キスしてもいい? でも怖かったら無理しないで。また今度でも」

 緊張しながら言葉にしてみる。

 つい口にしてしまった……

 あの日からできなかったキス。でも今回、断られても落ち込んだりしない。

 だってティアラの気持ちはちゃんと伝わったから……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ