表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者の心の声が可愛過ぎて困っています  作者: りょう
第三部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/142

94

 ──俺はティアラの望む優しい王子様になれなかった。

 結婚前なのにと軽蔑されたのかもしれない。

 でも分かって欲しいんだ。不誠実だったかもしれないけれど──

 ティアラが好きだから触れた。これは嘘じゃない。


『二人きりで話したい』と言われ、ケーキ屋に行くのはやめて、生徒会室へティアラを連れてきた。

 なるべく不安にさせないように……

 そう思っていたのに、現実は違った。

 なぜかドアも鍵も閉められ、窓も閉めるように頼まれて……

 正直、状況が理解できない。

 ──ちょっと待ってくれ。全然意味が分からないんだが。

 俺、なんの話をしに来たんだっけ……?

 あまりに混乱して、頭が真っ白になる。


「わがままを言ってすみません」

 ティアラの声で我に返った。

「いや、大丈夫だよ。今日は生徒会室、空いてたし」

 言いながら、心を落ち着かせる。

 二人きりでも、密室でも話す内容は変わらない。


『あの日は怖がらせてごめん。二度と自分勝手に触れないから心配しないで。ティアラの気持ちが追いつくまで待つと約束する。でもただの欲じゃないよ。ティアラが好きだから触れたかったんだ。ティアラが嫌なら絶対にしないと誓う。だから俺の事、避けないで……』

 そう話そうと思っていたんだ。

 思っていたんだが──


 ボタンが外され、前がはだけている。

 咄嗟に顔を逸したものの、何がなんだか分からず、ただ戸惑う。

 しかも、なんで手を握られているんだ……?

 静かな部屋に時計の秒針だけが響く。

 

 まさか試されている……?

 俺が次に手を出した瞬間に、見切られる……?

 いやいや、ティアラはそんな事はしない。それに何か不満があれば、口で言ってくれるはず。

 ここのところ、会話らしい会話はしていないが……

 思わず自嘲的になる。

 そう言い切れなくて、辛い。

 

 ティアラは俺から離れていかないよな……?

 段々と不安になり、心許(こころもと)なくて、目線を足元へ移す。

 思い出すのは、泣きながら謝るティアラだった。

 ……違う。あれは初めての事で驚いて。

 俺の事を怖がっていた……

 あんな風に目も合わせないなんて……

 いつもは絶え間なく聞こえていたティアラの想い。全く聞こえなくなり、俺は自信を失っていた。


「……バート様」

「ぅ、ん」

 緊張して声がひっくり返った。

 まるで死刑宣告を受ける罪人のように、重圧に耐えきれず、かろうじて返事だけする。

 何か言わないと──

 でも何も言葉が出てこない。


「こっちを見てください……」

 今にも消えそうな声。ティアラに言われ、心臓が止まりそうになった。

 言葉がなくても、ティアラの目を見れば、全部分かる。

 深呼吸をして、向き合おうとした瞬間──


「我慢しないでください」

 ティアラの言葉は意外なものだった。

 驚いて振り向くと、ティアラが抱きついてきた。

 予想外の展開に開いた口が塞がらない。

 ティアラ……?

 相変わらず目は伏せているから、ティアラの心の声は読めなかった。


『ティアラの気持ちが追いつくまで待つと約束する』

 今日はそう伝えたかったんだ。

「ティ、ティア……ラ……?」

「私、覚悟ができました……」

 覚悟ってなんの!?

 聞けば聞く程、分からなくなる。

 ティアラの甘い香油が香り、ドキッとする。

 こんなにくっつくのは、あの時以来……

 

 ティアラが好きだ。


 俺、ずっと寂しかったんだ……

 離したくない……


 久し振りの抱擁に(たま)らなくなる。気分が高揚し、何かを考えるのが難しい。

 ティアラが俺の腕の中にいる。

 なんとも言えない幸福感に翻弄されてしまう。

 何を考えているんだ、反省したばかりだろ……

 あの時の二の舞いになる。

 ──思い出せ、この辛かった数日を。

 ティアラを大事にするって、俺は決めたんだ。


「……とりあえず離れて」

 なんとか口にする。

 思いきり抱きしめ返してしまうか、突き飛ばしてしまいそうな衝動を抑え、説得を試みた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ