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不安にならないように、ドアは全開にしておくつもりだったんだ。
まずは怖がらせた事を謝って……
なんて伝えたら良いか考えていると、鍵を閉める音がして、驚いた。
あんなに怖がっていたのに、どうして……
せめて窓だけでも……
動揺しながら窓を開けると、風が入ってきた。
生徒会室は二階だが、中庭の前だから、この時間なら人もたくさんいるし、窓とカーテンを開けておけば……
「窓、開けないで貰えますか? カーテンも」
そう言ってくるティアラの意図が読めない。
さっき、『二人きりで話したい』と言っていたのを思い出す。
もしかしたら本当に別れ話……?
冷や汗が流れる。
伯爵家から婚約解消を申し出たと噂にならないように、俺の対面を気にしているんだとしたら?
周りに知られないようにとの、気遣いだったりして──
それとも、しばらく距離を置きたいとか……?
何度も誘ったりして、うんざりしていた……?
良くない考えしか出てこない。
迷ったが、言われた通り窓とカーテンを閉めた。
「とりあえず座ろう」
ソファに座っても気持ちが落ち着かない。
「ティアラも座って」
立ったままのティアラに声をかける。
ティアラは距離を開けて、俺の横に座った。
いつもだったら、くっついて座っていたのに……
『バート様、大好きです』
幸せそうに微笑むティアラを思い出すだけで胸が痛くなる。
もう何日も心の声を聞いていない。
その間に気持ちが離れてしまったのだとしたら……
「ティアラ……」
思いきって声をかけたが、ティアラは俺の顔を見るどころか、顔も上げなかった。静かに自分の手を見たまま。
──沈黙が怖い。
重い空気に息が苦しくなってくる。
それでも伝えたい。
君が好きだって──
「この前はごめん。俺──」
覚悟を決めて、話し始めると、ティアラの手が胸元に移動した。
パチ……
あまりに驚いて凝視してしまう。
ティアラはなぜか制服のボタンを外していた。
え……
「……ティ……ア……ラ……」
慌てて目を逸らす。
状況が分からず、混乱していると、ティアラが俺の手を握ってきた。




