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「お待たせしました」
待っていると、声をかけられ、振り向く。数分もしないうちにティアラが校門へ来た。
相変わらず目が合わないが……
「来てくれて、ありがとう。じゃあ、行こうか」
ほっとして伝える。
「……バート様」
不意に腕を掴まれて、ドキッとしてしまう。
触れるのは、久し振りだ……
「カフェじゃなくてもいいですか?」
ティアラに言われ、頷く。
「私の家でお茶しませんか?」
その言葉に驚く。
「突然行ったら、迷惑なんじゃ──」
今まで緊急時以外、突然訪れた事はない。
少し心配になり口にすると、ティアラは首を振った。
「問題ありません。両親は二人とも仕事で夜遅くまで帰りませんから……」
それなら余計に困る。ご両親の不在に約束なしの訪問。あまり良いイメージはないだろう。
ティアラの所で働く人達も、俺には好意的でよく二人きりにしてくれるから、それも心配だ。ティアラはまだ怖いだろうし……
今は二人きりは避けた方がいいに違いない。
「ごめんね。流石にルアーナ夫妻がいない時に訪問するのは、ちょっと……」
焦りながら断ると、ティアラは下を向いたまま話し始めた。
「……お店だと人がいるでしょう。二人きりで話したいんです」
ティアラの言葉に温度が下がる。
『もしかして婚約解消するつもりだったりして……』
不意にさっきの噂話を思い出す。
そんなはずない……
そう思いたいが、ここ数日、まともに会話すらしてないんだ。
無理矢理迫って嫌われた……
その線がないとは言いきれない。
目は伏せていて感情を読めないが、良い話ではない事位分かる。
心臓が嫌な音を立てていく。
「バート様?」
声をかけられ、ハッとした。
「……それなら……生徒会室へ行こう。今日は空いて……いるから」
逃げ場がないようで怖いと感じるかもしれないけれど、密室にならないように、ドアや窓を開ければ……
もし嫌そうなら、常識知らずと思われたとしても、ティアラのうちへ……
動揺しながら、なんとか伝える。
「はい」
肯定の返事が帰ってきて、益々緊張してしまう。
緊張しながら来た道を二人で戻った。
「どうぞ……」
「お邪魔します」
予想通り、生徒会には誰もいない。
ティアラが少しでも安心できるように……
ドアを開けたままにし、窓の鍵を外していると、ドアを閉める音がして、驚いて振り向いた。




