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あっという間にティーパーティーの日になった。
色とりどり飾られた花。準備されたデザートは鮮やかにデコレーションされ、やたらキラキラしている。
流石、王家主催。お茶会とは思えない程の豪華さだ。
開始の時間前に俺は殿下の所へ挨拶へ向かった。
「ギル。アイリーンだ」
白を基調にした装い。金と赤の差し色は王家の象徴。お揃いのタキシードとドレスを着ている二人は本当によく似合っている。
空色……珍しい髪色だ……
彼女は優雅に淑女礼を取ると、ゆっくりと顔を上げた。
「アイリーン=レイシアと申します。レヴァイン様。ライルからよくお話は聞いていました。これから、どうぞよろしくお願い致します」
殿下の事、敬称なしで呼んでいるのか。余程、仲が良いんだな。
(ライルの親友に紹介してもらえるなんて! 彼が私達のキューピッドなのね。確かに噂通り、格好良いわね。ライルの方が美しいけど!)
殿下。俺の事を親友って言ってくれたのか。
気恥ずかしくなり、俯く。
「昨夜は緊張し過ぎて、ほとんど眠れませんでしたの。……何か不手際があっても見逃してくださいね」
その言葉だけで、彼女の人柄が分かる気がした。
とはいえ、いずれ王太子妃になる方だ。
「レイシア様、俺の事はギルバートとお呼びください。敬称、敬語も結構です」
「まぁ、では私の事もアイリーンと呼んでくださる?」
「はい。アイリーン様」
「ギルバートは背がとても高いのね。それに瞳の色が素敵」
(ライルが唯一心を許しているご友人。いつも優しい人だと言ってるし、ライルの親友なら私も仲良くなりたい)
和やかに話していると、殿下が前に出てきた。
「アイリーン。俺の前で他の男を褒めるな」
不機嫌そうな声に驚く。
殿下はアイリーン様をじっと見つめ、手を握った。
「や、やだわ。ライルったら! まさか嫉妬してるの?」
「……悪いかよ。ギルは男前だから、本当は紹介したくなかったんだ」
拗ねたように殿下が顔を逸らすと、アイリーン様は嬉しそうな困ったような複雑な顔をした。
「確かにギルバートは格好良いけど、ライルの方が……それに私が好きなのは……」
アイリーン様の言葉を聞いて、殿下が目線を上げた。
「好きなのは?」
「もう! 分かるでしょ!」
アイリーン様は真っ赤になりながら、手を振り払った。
「分からないから、言ってくれ」
今度はそっと両手を握って見つめ合っている。
「て……手を離してよ、ライル」
「じゃあ、言って?」
急にイチャイチャし始める二人を見て、盛大に溜息をつく。
「あー。ゴホン」
わざと大きく咳払いする。
「殿下? 俺がいるの、忘れてませんよね?」
「あぁ、勿論忘れてないとも」
(今の聞いた? 俺の婚約者、最高に可愛い。照れてる顔ってキュンとする。ギルよりも俺の方が格好良くて大好きだって。ふふ……良い気分だから、さっき、アイリーンがお前を褒めたのは許してやる)
もう、どこから突っ込めば良いのか、分からない。
(ギル。二人きりになりたいから、どっか行ってくれ)
おまけにとんでもない命令が来た。我儘な主はやり放題。仕方なく会場へ戻った。