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「パルミエもとっても美味しいです」
「……それは良かった」
同じベルガモットの香り。いつもより上気した頬。向かいではなく、ティアラは隣に座ってきた。
近いな……腕がぶつかる。
少し引いたら、手を繋がれてしまった。
「バート様の手、大きいですね」
(いつもより温かい。同じ香油の香りで嬉しいな。二人きりで夜、お茶をしているなんて結婚してるみたい!)
ティアラがやけに積極的過ぎる。それ自体は嬉しいんだけれど……
結婚前だし、色々困るっていうか……
確かめるように指をなぞられて、ゴクリと生唾を呑む。
(あー。幸せ!)
俺も幸せだよ。でも、そんな風に触られたら……
最近スキンシップが増え、二人の時には甘えてくる。
俺は殿下と違って、結婚までは手を出さないつもりなんだ。俺が卒業した後、ティアラはあと二年、学生だし。
大事にしたいから……
「……ありがとう? お、お茶のお代わりはどう? ティアラは指が細いね」
もう自分が何を言っているか分からない。支離滅裂な自分の台詞に呆れる。
「お茶は大丈夫です。もう少しだけ、こうしててもいいですか?」
そう言ってティアラは俺から離れない。
こんなにくっついて、俺に襲われたらどうするんだ。もう少し自衛して欲しい。
俺の想いとは裏腹に、ティアラはとても幸せそうな顔をしている。
「バート様、食べさせてあげます」
ティアラがクッキーを口元に持ってきた。
これを食べろと……
(あ、あれ? 私、間違えた!? 前、やった事あるから、今なら二人きりだから今ならと思って……失敗した)
その声を聞いて、口を開ける。
(口を開けてくれた。わー八重歯が可愛い。バート様、照れてただけ?)
だから可愛いはやめて。
俺の顔ばかり見るティアラに困ってしまう。サクサクという音が部屋に響き、沈黙が訪れた。
(ルージュを引かなかったのは、はしたないって思われちゃったかな。でもキスしたい……)
ティアラの独白を聞いて、紅茶を吹き出しそうになる。
(さっきの『口、開いて』ってどういう意味ですか? もしかして……もしかして、その先を求められてるのかしら)
赤い顔で見られ、心臓の音がうるさくなる。
二人きりの時、そういう表情はやめてくれ。
大人の振りができなくなる──
ティアラの腰を引き寄せ、唇を奪った。




