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「バート様、隣に座ってもいいですか?」
紅茶を飲み終わり、ティアラが聞いてきた。
「うん、いいよ。おいで」
緊張を悟られないように、笑顔で伝える。
(『おいで』だって! バート様、本当に王子様みたい)
久し振りに王子と言われ、苦笑い。
正直、思ったより余裕がない。
ピッタリと隣に座られ、体を預けられる。
(幸せ……いつも離れる時、寂しいから、邸に帰らなくていいのが嬉しい)
「バート様、長い時間一緒にいられて嬉しいです」
ティアラの瞳がキラキラしている。
「俺も……」
なんとか声を絞り出す。
俺もなんだけれど……
馬車と違って、すぐ側に誰もいない。本来、客が来ている時は部屋の前に誰かしら待機しているが、人の気配が全くしない。
遠慮しているのか、気遣われているのか、理由は定かではないが。
(バート様、今日は肩、抱いてくれないのかな)
無邪気にくっついてくるティアラに一言言いたい。そんなに男を信用するなと──
自分の家で二人きり。こんなに理性を揺さぶられるなんて。
ティアラが触れている体の右側だけ、やけに熱い。
こんな個室で触れてしまったら、止まれる自信がない。
最近、どうしようもないんだ。
堪らなくなって、目を逸らす。
「バート様、屈んでください」
不意に頬に手が触れ、ドッと心臓が跳ねる。至近距離にティアラの顔があり、固まってしまう。
(はしたないかしら。でも、したい)
──したいって、何を。
「な、なんで」
動揺して、声が震えた。
(私からキスしてもいいですか? バート様)
聞こえた言葉を理解すると同時に、うるさい胸を押さえる。
駄目だよ。そんなの、無理。
「目をつぶって……」
懇願甘えるような口調で囁かれたら、言葉が出てこない。
「大好きです、バート様」
(大好きです、バート様)
心の声と耳に響く声が重なる。
ティアラはそれ以上、何も言ってこない。
「俺も大好きだよ……」
ダークブルーの瞳を見つめる。
それはとても長い時間のように感じた。
意を決して目をつぶる。心臓が狂っているみたいに鳴っていて、今にも止まりそうだ。
息が苦しくて、それでもティアラに伝えたくて、繋いでいる手を握り返した。




