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手紙には、デルムガルト橋がすでに通行できないと書かれている。上流で地滑りがあり、木や枝が流され一部破損。水位も上がり危険だそうで、封鎖されてしまったらしい。
あまりの大雨で、ルアーナ夫妻もうちの両親も陛下から王宮への滞在を勧められたとの事。
父上からティアラをうちへ泊めたらどうかと提案された、という部分まで読み、息を呑む。
「バート様……」
ティアラに声をかけられ、顔を上げる。
「バート様のお父様から、レヴァイン邸に泊まるように勧められて……」
(お泊り……!)
赤く染まった頬を見て、ゴクリと喉を鳴らす。
い、いやいや!
頭を振り、手紙に目線を戻した。
ルアーナ伯爵から、迷惑をかけるかもしれないが、よろしく頼むとの旨が綴られていて、緊張しながらティアラの方を見た。
ティアラはもう一度読み直しているが、ウキウキとした様子が窺える。
「坊っちゃん、お待たせしました。馬車の準備が整いました。お手紙は緊急のものでしたか?」
まだ何も知らない家令がにこにこしながら、バラの花束を抱え、その場に現れた。
「ロバート、デルムガルト橋が渡れないそうだ。父上と母上も王宮に滞在するらしい。父上からの提案で、ティアラをうちへ泊まらせるよう、ルアーナ伯爵からお願いされた。客間の準備を」
緊張しながら、なんとか伝える。
「は、はい。かしこまりました。誰か! メイド長、料理長を呼んでくれ」
(なんと……! 一大事!!)
ロバートは目に見えて、喜んでいる。
(ど、どうしよう……泊まりだなんて。う……嬉しい! 一緒に食事して、お風呂上がりの濡れた髪とか見られるかも!? 眠る前に紅茶を飲んだり、星空を見たり……あ! 土砂降りだったわ! もしかしたら、もしかして、お休みのキスをされちゃったり……寝起きは少し寝癖が付いていたりして、無防備なバート様……見たい! 嬉しい! お泊り会よ!)
ティアラも大喜びだ。
楽しそうな皆と裏腹にそっと溜息をつく。
一晩一緒に過ごす……
色々我慢できるかな……
深呼吸して、ティアラと向き合った。
「ハプニングだけど、夜も一緒にいられて嬉しいよ」
緊張がバレないよう、笑顔を作り、バラの花束を手渡した。




