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「ガナッシュ、美味しいです! 蕩けますね」
顔を緩ませて、ティアラが言う。
「そうだろ? フルーツタルトも食べて。ティアラが喜ぶと思って、メイド長自ら果物を買いに行ってくれたんだ」
俺がメイド長の話をすると、ティアラはとびきりの笑顔になり、振り向いた。
「まぁ、嬉しいですわ! フルーツも大好きなんです。ありがとうございます!」
ティアラが礼を伝えると、ステラはそわそわしている。
「俺からも礼を言うよ。ありがとう、ステラ」
「レヴァイン家のメイド長として当然の事をしたまで。喜んでいただけて何よりです」
すましてはいるが、実は……
(ギルバート様のお陰でティアラ様の可愛い笑顔が見られました! 朝から市場に行った甲斐がありましたわ……勉強も学年で上位だし努力家。刺繍や編み物の腕も然る事ながら、貴族なのに料理やお菓子作りも嗜むなんて! 一途な性格でずっとギルバート様一筋だし、本当に素晴らしいお相手を見つけましたね! 早くお嫁に来てくれないかしら)
ステラは素直で優しいティアラの事を自分の娘のように思い、毎回、張り切って準備をしてくれている。
✳✳
「今日はバート様のご両親も王宮へ?」
「ああ、ティアラの所もだろ?」
「そんなんですよ。うちは滅多に王宮へは行かないので、昨日の夜から、お父様もお母様も緊張で食欲がなかったです」
(特にお母様は早起きして、ドレスにメイク大変そうだったな)
ティアラが思い出しながら笑う。
「……川が増水しないといいけど」
窓の外に目をやると、更に雨脚が強まっている。
「デルムガルト橋が渡れなくなってしまうので、そろそろお暇しますね」
(本当はまだ一緒にいたいけど……)
「そうだな。これだけ降っていると危ないかもしれない。残念だけど、今日はお開きにしよう」
デルムガルト橋はルアーナ邸への帰り道にある大きな橋だ。
家令に花束をこっそり頼む。ロバートはコクリと大きく頷き、ホールから出て行った。
帰り支度をしている時、従者が二つの手紙を持ってきた。
一つはルアーナ伯爵からで俺宛。もう一つは父上からでティアラ宛だ。
逆なら分かるが……
頭を捻りつつ、封を開ける。
──その中身を見て、驚いた。




