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「お前にピッタリの子を見つけた」
ある晩、父上が嬉しそうに自室を訪ねてきた。
「穏やかなお嬢さんで、お前も気にいると思うよ」
「婚約者の件なら、何度もお断りしていますが」
「……お前の気持ちはよく分かるよ。だが、一回会ってみないか。ほら、学院に入ってから女の子達に付きまとわれて困っていると言っていただろう? 婚約者がいれば、そういうのも減ると思うよ」
父上は、友人やクラスメートと一線を引く俺をいつも心配していた。
でも散々、他人の心の声を聞いてきたんだ。
家族や殿下のような裏表のない心の持ち主は他にいない気がする。
秘密を明かさなければ悪意が聞こえてしまい、秘密を漏らすと気持ち悪いと思われる。
「俺も公爵家の人間。家の為にいつかは結婚し、跡取りを作る必要があるのは分かっています。でも、今はまだ──」
「家の為じゃない。お前にも幸せになって欲しいんだ」
父上が肩を叩いた。
この力がある限り、幸せなんて……
つい考えてしまうと、父上に読まれ、寂しそうな顔をさせてしまった。
「……どんな子なんですか?」
罪悪感を感じ、聞いてみる。
「仕事で懇意にしているルアーナ伯爵の所のお嬢さんなんだ。心がとても綺麗な子で悪意が全く感じられない、珍しく純粋な子だよ。年はお前の二つ下で同じ学院の特待生らしい」
ルアーナ伯爵……
聞き覚えのある名前に顔を上げた。
この前、会った子か……?
植物園で助けたルアーナ嬢を不意に思い出す。
確かに、公爵家に取り入ってやろうという感じではなかった。
伯爵ということはうちの方が格上。本当に家の利益の為ではなく、俺の幸せの為に……
それが分かり、何も言えなくなる。
「ルアーナ嬢を知っているのか」
心を読まれてしまい、聞かれる。
「……殿下の付き合いで植物園に行った時、偶然会っただけですが」
「そうか、運命かもしれないな」
父上は破顔した。
「運命なんて信じてるんですか?」
あまりに嬉しそうな表情を見て、突っ込まずにはいられなかった。
「勿論! 妻に出会えたのは、運命だ!」
仲良いのは良い事だけれど、息子に惚気られても困る。
「婚約を打診して会った後に断れば、相手は傷つくのでは……」
「お前がそう言うと思って、対策を練ってきた」
「対策?」
「国王陛下に相談したら、『是非、力になりたい』と言ってくださってな。王太子殿下の婚約者のレイシア嬢のお披露目ティーパーティーを開く予定なんだが、同世代の方もお招きしてくださるそうだ。あちらにはまだ婚約の話はしていない」
……いつの間に。
父上は余程、ルアーナ嬢を気に入っているらしい。
つまりはお茶会といいつつ、事実上のお見合いパーティーのような物か。
「それに参加しろと……」
「あくまできっかけに。正式に申し込む前に、少し話してみないか? 会って話をすれば、きっと彼女の魅力に気付くはず。お嬢さんの方には特定の相手はいないらしいから、お前が気に入れば、すぐに求婚しに行こう」
彼女は男が苦手だったみたいだし、公爵家に興味なんかなさそうだった。俺なんか選ばないんじゃ……
「大丈夫。お前は誰が見ても男前。格好良いし、性格も良い。ついでに家柄もバッチリ、将来も安泰だ。断る理由なんてないだろう!」
また読まれてしまった。
それは、親の欲目ですよ……
突っ込むと、父上は目尻を下げた。