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「レヴァイン様、マドレーヌ貰ってください!」
ズラリと並んだ女の子達を見て、後退る。ティアラを待っていたら、囲まれてしまった。
ティアラと同じ学年の子だ……
「製菓の授業で作ったんです。上手に焼けたので」
「悪いけど……」
「レヴァイン様に食べて欲しくて一生懸命作ったんですよ!」
(婚約者のルアーナ嬢には負けてられないわ)
「お願いします! 一口だけでも!」
(公爵家で、将来は殿下の側近、加えてこの美貌‼ なんとしてでも付け入りたい!)
「……ごめん」
婚約者がいるにもかかわらず、令嬢達はお構いなしだ。彼女達からすれば、公爵家の跡取りは魅力的らしく、断っても断ってもキリがない。卒業後殿下の元で宰相補佐をする事が決まっていて、噂にもなっているし、それも大きいのだろう。
「バート様!」
ティアラの声がして、振り向いた。
手には綺麗にラッピングされた包み紙を持っている。
(どうして、そんなにモテるんですか! しかも皆、可愛い子ばかり。私以外の女の子に触らないで!)
ティアラの心の声に驚く。
ちょっと待って。指一本触ってないから。
「バート様……」
ティアラは何かを言いかけて、口を閉じた。
(他の子から貰ったりしないで……バート様は私の好きな人なのに! でも……言えないわ。そんな淑女らしくない発言。それに子どもっぽいと思われる)
最近、ティアラからヤキモチを妬かれるようになった。
「ティアラ。それ、俺に?」
声をかけると、周りの令嬢達は仕方なく口を噤んだ。
(……気付いてくれた)
「私のも……貰ってください……」
泣きそうな顔を見て、堪らないと思っている俺は結構酷い男なのかもしれない。
「勿論。ありがとう」
令嬢達を素通りし、真っ直ぐティアラの元へ向かう。
「……」
(他の子と話してたのに、私の所に来てくれた)
ティアラの顔が綻ぶ。
(話してる途中だったのに)
ティアラは目がくっつきそうになる位、緩んだ顔になった。
そんな嬉しそうな顔をして……
「今、食べていい……?」
そっと肩に手を回す。
「バ、バート様! 他の方が見てますわ!」
(う……嬉しい! 人前でスキンシップを取ってくれてるなんて! ヤキモチ我慢して良かった!)
「バート様……」
ティアラは耳まで赤くなっている。
なんで、こんなに可愛いんだろう……
余裕な表情ができなくて、そのまま髪を撫でた。




