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「どの食材も問題ございません」
カイラード卿が伝えると、殿下は笑顔になった。
「アイリーン、どれが食べたい? 桃のタルト? それともサッパリしたオレンジのジュレ?」
「ありがとう。両方食べたい!」
チラリとアイリーン様に見られて、会釈する。
(あの時、ギルバートに相談して良かった。話をたくさんしてくれるようになったし、妊娠が分かってからは益々優しくなったの)
幸せそうに微笑むアイリーン様を見て、ほっとする。
(初期は流産しやすいからと、過保護になって少し困る時もあるけど)
殿下の溺愛ぶりが目に浮かぶ。
「バート様」
その時、横からティアラに抱きつかれた。
「……どうしたの?」
人前ではそんなにスキンシップを取られる事はないから、少し驚いた。
(今、アイリーン様を見つめてた……?)
飛び込んできた思考に、慌てる。
それは誤解だ!
……と思うと同時に嬉しくなる。
ヤキモチは俺の事を好きだから……?
(でも今日のアイリーン様、本当に綺麗。私ももっと大人っぽい髪型にすれば良かったわ。そもそもバート様、モテ過ぎなのよ! 皆、格好いいって騒いでるし)
グルグル考えるのが可愛くて笑ってしまう。
「ティアラ」
「……はい」
いつもより元気のない声にキュンとしてしまう。
「今日のティアラ、綺麗でドキドキする」
誰にも聞こえないように、そっと耳打ちした。
(『ドキドキ』!? な、なんて事を……)
ティアラの動揺が伝わり、頭を撫でた。
誰かと比べる必要なんてないよ。
俺の一番は君だから……
「この場で一番可愛い」
少しでも不安をなくしてあげたくて、内緒話を続ける。
(『一番』! バート様の一番……)
驚きつつ嬉しそうな表情にほっとする。
「バート様!」
「うん?」
「少し屈んでください」
不思議に思いながら、屈むと耳に唇が当たった。
耳へのキス。思わずゾワッとしてしまい、体が熱くなる。
「……こんな所で、そんな事しちゃ駄目だよ」
さっきのキスを思い出してしまい、顔が熱くなる。
(照れている顔も……困ってる顔も素敵……)
その時、視線を感じ振り向いた。
殿下とカイラード卿に見られていて、顔から火が出そうになる。
しまった。見られていた!
(おーい。ここ外だぞ? 人には文句言うくせに自分はイチャイチャしていいのかよ)
不敵な表情の殿下と目が合う。
(ギルバート君、婚約者殿と仲良しなんだな。内緒話なんかしちゃって。可愛くて、応援したくなる。いやー。若いっていいな)
カイラード卿はまるで親戚の叔父さんのようだ。




