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「彼は知り合い?」
「学年は違いますが同じ学院です」
「俺も同じ学院なんだ」
「そうでしたか」
(存じております)
「困っていたので、本当に助かりました。よろしければお礼をさせてください」
彼女は深く腰を折った。
「気にしなくていいよ。顔を上げて。君が謝る必要もないから」
「そんな……」
(なんて美しい顔なのかしら。何を食べたら、こんな美形に? この輝き、尋常じゃないわ……! まつ毛長いし、お肌も綺麗。学院でファンクラブがあると聞いて、『何それ』と思ってたけど、こんなに格好良いなら納得ね)
食事は関係ないと思うが……
思わず笑ってしまいそうになり、咳払いをして誤魔化した。
「もし、また絡まれるような事があれば、生徒会や学院の先生に相談してみるといいよ」
「……ありがとうございます」
(『麗しの白バラ令息』の名も伊達じゃないわね。騒いでる皆を馬鹿にした事、謝らないと。私もサイン貰っちゃおうかしら)
……サインなんか書かないから。
『麗し』? 何、その呼び名。初めて聞いたんだけど。
堪えきれず、笑ってしまう。
(笑った……!)
心の声を聞いて、ハッとする。
不覚……つい顔に出してしまった。
(私を安心させる為に微笑んでくださったのかしら。なんて優しい人……!)
ず……随分、前向きな子だな。
気まずくなり、前髪をかきあげる。
(残念。真顔に戻っちゃった。『格好良いけど、無愛想で無表情』って聞いたけど、笑顔は可愛いのね!)
可愛い……⁉
言われ慣れない言葉に戸惑う。
(今度は照れてる! 顔は恐ろしく綺麗だけど、中身は意外と普通の人かも……勝手に苦手意識を持ってた事、反省しないと)
──『普通』なんて初めて言われた。
学院で寄ってくる女の子は皆、家柄についてばかりだし……
この子はレヴァイン家の跡取りだとか、そういうのは全然考えてなかったみたいだ。
「人を待たせてるから行かないと。スケッチ頑張ってね。俺はこれで……」
「はい! ありがとうございました!」
「お待たせしてすみません」
殿下の所へ戻り謝ると、笑顔を向けられた。
(ギルのファンの子が見たら、泣いちゃうな。女の子に優しいギルは初めて見たよ)
「別に……」
「ああいうタイプが好みなんだ? あの子、知ってるよ。同じ学院で二つ下」
ニヤける殿下を見て、溜息をつく。
「助けただけです」
なんだか顔が熱い。
(本当に珍しい。赤くなってる!)
「なってません」
殿下にからかわれ、居心地が悪い。
「照れるなよ。いつもは寄ってくる女の子に嫌悪感を隠さないし、よくて無表情だろ」
「あの子、心の声がうるさくて」
「彼女はどんな事を考えてたんだ?」
「……俺の事を『王子様』だって」
「お前が王子⁉ 無愛想で人嫌いなお前が⁉ 表情筋がほとんど死んでいるお前が⁉ 不敬だぞ。王家に謝れ」
「俺が言ったんじゃありません」
殿下は肩を震わせ大爆笑である。
ありのままを話したのに……
「いつまで笑ってるんですか」
「だって、お前が王子って……ふ、ははっ」
「もうデートの下見に付き合ってあげませんからね」
「怒るなよ、ギル。謝るから……くく」
殿下はまだ笑っている。
「謝る気、ゼロですよね?」
若干、モヤモヤしながら、笑いが止まらない殿下を軽く睨んだ。