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立食パーティーで準備された食事はどれも美味しかった。
「バート様、こっちも食べてください」
「ん。美味しい」
「そうでしょう?」
(もぐもぐしてるの、可愛い!)
また可愛いって言ったな。ティアラの方が可愛いから。
「ティアラ、最近、可愛くなったなぁ」
「あと二年で人妻なんて」
(レヴァイン様の髪色のドレスとか、とどめを刺された気分)
(あー。俺達のマドンナが)
ひそひそ話しているのは、小さい頃、通っていたマナー教室の幼馴染だ。俺は二学年上だから疎遠だったが、ティアラとは同じ学園でクラスやクラブ、委員会、何かしら関わりが続いていたらしい。
既視感を感じ、溜息をつく。
コードウェルだけじゃないんだよな。ティアラを可愛いと思っている奴は。
「バート様のそれ、サーモンですか? マリネのソースは何味でした?」
ティアラは食べ物に夢中で、幼馴染の事に意識が行っていない。
分かっているよ。杞憂だって。
でもティアラは可愛いから心配なんだ。
「食べる?」
皿をテーブルへ置き、口元にフォークを寄せると、じっと見られた。
(こ、こんな人が多い所で、それをやるんですか?)
「口開けて」
そっと囁くと、周りがざわつくのが分かった。
(何、今の低音ボイス! そ、そんな色っぽい声で話しかけられたら、困ります! 前に学院の食堂で逆に食べさせて貰ったけど。やだ……皆、見てる! いやー! バート様も顔、赤い!!)
ティアラの脳内は大混乱だった。
「ま、まさか食べさせてあげるのか? あのクールなレヴァイン様が?」
「食堂でも食べさせっこしてたって聞いたが、ただの噂だと思ったのに」
他の同じ学院の友人達も騒ぎ始めた。
正しくは、コードウェルに嫉妬して、俺が無理矢理食べさせて貰ったただけだが。
「食べてくれないの?」
わざと甘えた声を出すと、ティアラがフラッーとよろけた。
「おっと」
慌てて腰に手を回す。
(バ、バート様!? い、い、今のは一体!?)
ティアラはパニックに陥り、思考回路が止まっている。
ごめんね、まずは任務を達成しないと。
「食べて欲しいな」
駄目押しで伝えると、ティアラは壊れた機械のようにパクパクと口を開いた。
そこへ再度、サーモンを近付ける。
ティアラは躊躇いがちに食べてくれた。
「美味しい?」
「は、はぃ……」
キスして少し余裕が出るかと思ったが、逆だな……




