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「お取り込み中? 相変わらず仲良しね」
ホールに入ってきたのは、ティアラのお姉さんのナディアさんだ。
腕には赤ちゃんを抱っこしている。
「ご無沙汰しております」
頭を下げると、ナディアさんは吹き出した。
「うちの子、見せに来たんだけど……お邪魔だったかしら」
(ギルバート君ったら、ルージュベッタリ付いちゃってる。少し前、ティーから『キスはまだ……』って相談されたけど、ようやくして貰えたのね。ティーの方はルージュ落ちちゃってるし)
会話も聞かれていたのかもしれない。やけに生温かい視線が絡みつく。
「お子さん、可愛いらしいですね」
焦って誤魔化そうとしたが、笑われてしまった。
(ギルバート君の唇、キラキラし過ぎ!)
「今、侍女から必要な物を貰ってきてあげるわ」
肩を揺らしながら言われてしまい、苦笑い。
ティアラは意味を察し、横で真っ赤になっていた。
「誰か来たら、私が足止めしてあげるから、早く直していらっしゃい」
ナディアさんからオイルを受け取り、二人で奥へ移動した。
「ご、ごめんなさい。バート様」
「ティアラが謝る事はないよ。俺が……」
(バート様も照れてる)
目が合い、お互いに照れ笑いをしてしまう。
布にオイルを含ませ拭き取る。布には鮮やかなローズピンクが残っていた。
こんなに色が付いていたのか……
危ないところだった。
「取れた?」
手元に鏡がなく、聞いてみる。
「はい。大丈夫だと思います」
ティアラは手鏡を貸してくれた。
(キス、拭いちゃったから、もうできないのね。もっとして欲しかったな……)
うっかり読んでしまい、慌てる。
(バート様のキス、優しかった……)
幸い、ここに必要な物は全部あるし……?
そんな事を考えてしまい、頭を振る。
ナディアさんがすぐ側にいるんだぞ! 俺は何を考えているんだ!
決意して、ルージュの入れ物を手に取る。蓋を開けると、甘い香りがふわっと漂った。
指にローズピンクの色を乗せると、ティアラが驚いて俺を見上げた。
(まさかバート様が塗ってくれるの……?)
ティアラのドキドキが伝わる。
上目遣いやめて欲しい。緊張するから。
ゆっくり指でなぞると、唇に赤味が差す。
「……できたよ」




