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婚約者の心の声が可愛過ぎて困っています  作者: りょう
第三部

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 ティアラが好きなんだ。

 きっと君が思うよりずっと……

 

 ダークブルーの瞳と目が合い、まるで時間が止まっているようだった。

「俺も……好きだよ……」

 そう伝えると、涙目のまま、じっと見つめられた。

(照れてる顔、可愛い。『俺も』だって! 嬉しい……! バート様も私が『好き』。幸せ……)

 長いまつ毛が濡れていた。

 また可愛いって言われてしまった。

 少し悔しくて、ドキドキしながら顔を近付ける。

(ちょ! ちょっと近いですよ! さっきより顔が……ち、近い近い近い! バート様! そんなに色気を振りまかないでください! 心臓止まっちゃう! やだ、無理! 格好良い……)

 支離滅裂な心の声が聞こえてくる。

 頬に手を添えると、ビクッと震えてから、目を逸らされてしまった。

 ティアラは動揺して真っ赤になっている。


 可愛い……

 ティアラが可愛過ぎる……


 可愛い俺の──

 俺だけの婚約者。


「ティアラ」

 なんとも言えない気持ちで、声をかけた。

 ティアラは俯いたまま、動かない。

「ティアラ……?」

 もう一度優しく話しかける。

「……はい」

 恥ずかしいのか、返事が返ってくるまでに時間がかかった。


 顎を持ち上げ振り向かせると、ティアラの心音が伝わってきた。

(バ、バート様の顔が……!)

 激し過ぎる胸の音に緊張が移る。

「生まれてきてくれて、ありがとう」

 (かが)んで目をつぶり、唇を重ねる。


 ティアラとのキス。唇に触れたのは初めて。

 ルージュなのか、その瞬間、甘い香りがした。

 ──頬や髪とは全然違う。


「……ごめん。ティアラが可愛くて」

 ゆっくりと体を離し、髪を撫でる。

 誕生日にキスして欲しいと、うっかり心の声を読んでしまってから、本当は色々計画していたんだ。

 パーティーが終わった頃の夕暮れ時、二人で沈む夕陽を見てから……とか。また、こっそり忍び込んで夜、星空を見ながら……とか。

 扉もないホールで、いつ誰が通るかも分からないのに、あまりの可愛さに負けてしまった。


 ティアラは自分の唇を指でそっとなぞり、恥ずかしそうに笑った。

(キ……キスされちゃった。『ティアラが可愛くて』ってなんなの、その台詞! これ以上好きにさせないで! 唇ってやわらかいんだ……キスする位、好きって事? ファーストキス! 大好きなバート様からの誕生日プレゼント。もう思い残す事はないわ!)

 もー。可愛いのも程々にして。


「もう一回してもいい?」

「……バ」

 返事を待たずに、後頭部を引き寄せ、唇を奪う。


 幸せで泣きそうになるなんて、初めての経験だった。

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