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ティアラが好きなんだ。
きっと君が思うよりずっと……
ダークブルーの瞳と目が合い、まるで時間が止まっているようだった。
「俺も……好きだよ……」
そう伝えると、涙目のまま、じっと見つめられた。
(照れてる顔、可愛い。『俺も』だって! 嬉しい……! バート様も私が『好き』。幸せ……)
長いまつ毛が濡れていた。
また可愛いって言われてしまった。
少し悔しくて、ドキドキしながら顔を近付ける。
(ちょ! ちょっと近いですよ! さっきより顔が……ち、近い近い近い! バート様! そんなに色気を振りまかないでください! 心臓止まっちゃう! やだ、無理! 格好良い……)
支離滅裂な心の声が聞こえてくる。
頬に手を添えると、ビクッと震えてから、目を逸らされてしまった。
ティアラは動揺して真っ赤になっている。
可愛い……
ティアラが可愛過ぎる……
可愛い俺の──
俺だけの婚約者。
「ティアラ」
なんとも言えない気持ちで、声をかけた。
ティアラは俯いたまま、動かない。
「ティアラ……?」
もう一度優しく話しかける。
「……はい」
恥ずかしいのか、返事が返ってくるまでに時間がかかった。
顎を持ち上げ振り向かせると、ティアラの心音が伝わってきた。
(バ、バート様の顔が……!)
激し過ぎる胸の音に緊張が移る。
「生まれてきてくれて、ありがとう」
屈んで目をつぶり、唇を重ねる。
ティアラとのキス。唇に触れたのは初めて。
ルージュなのか、その瞬間、甘い香りがした。
──頬や髪とは全然違う。
「……ごめん。ティアラが可愛くて」
ゆっくりと体を離し、髪を撫でる。
誕生日にキスして欲しいと、うっかり心の声を読んでしまってから、本当は色々計画していたんだ。
パーティーが終わった頃の夕暮れ時、二人で沈む夕陽を見てから……とか。また、こっそり忍び込んで夜、星空を見ながら……とか。
扉もないホールで、いつ誰が通るかも分からないのに、あまりの可愛さに負けてしまった。
ティアラは自分の唇を指でそっとなぞり、恥ずかしそうに笑った。
(キ……キスされちゃった。『ティアラが可愛くて』ってなんなの、その台詞! これ以上好きにさせないで! 唇ってやわらかいんだ……キスする位、好きって事? ファーストキス! 大好きなバート様からの誕生日プレゼント。もう思い残す事はないわ!)
もー。可愛いのも程々にして。
「もう一回してもいい?」
「……バ」
返事を待たずに、後頭部を引き寄せ、唇を奪う。
幸せで泣きそうになるなんて、初めての経験だった。




