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「お待ちしておりました。レヴァイン様」
ルアーナ家の侍従に案内され、ホールのソファに腰掛ける。
今日はティアラの18歳の誕生日。
「お花が届きました!」
「焼き菓子はどちらに運びますか?」
「シルバー類の準備が整いました」
誕生日会の支度で忙しいのか、邸中、珍しく賑わっている。
ティアラはどんなドレスを着てくるのだろう……
誕生日に着るドレスは、家紋をモチーフにした物が多く、結婚前は両親から贈られる。
ルアーナ家は白のすずらんがモチーフだ。去年は白の可愛らしいドレスだった。
デビュタントのドレスは色が白だと決まっているから、日にちも近いし、今年は違う色にすると前に話していたが……
デビュタントと同様、内緒にして教えてくれなかった。その話になると、恥ずかしそうに目を逸らされてしまい、結局、分からないまま。色すら知らない。
薄い桃色、パステルカラーの黄色、淡い空色、薄紫色、どれも似合いそうだけれど……
隣に立った時、一応どんな色でも合うように、無難に黒のフロックコートにスカーフは白にしてみた。スカーフの留具と袖口のカフスはティアラの瞳と同じダークブルーの石、ロイヤルブルーカイヤナイト。
相手の髪色や瞳の色の装飾は『特別』を意味する。
これを見たら、ティアラはどんな反応をするかな……
本当はポケットチーフやスカーフも淡い桃色にしようが迷ったけれど、羞恥心に勝てずやめてしまった。
喜んでくれそうな気もするが、少しでも重いとか思われたら、耐えられない。
カフスをじっと眺める。
その点、こっちは装飾として割とよく使われる色。この石なら自分の髪色にも近いし、言い訳ができるというか……
俺は殿下みたいに好意を表に出すのは苦手なんだ……
「ギルバート君」
声をかけられ、立ち上がった。先に入ってきたのは、ルアーナ夫妻だ。
「やぁ、よく来てくれたね」
笑顔のルアーナ伯爵に礼をする。
話をしながら、二人の目線が留具に移る。
(ティーの瞳と同じ宝石! うちの子、愛されてる……! ブルーサファイアかしら? それともカイヤナイト? ギルバート君ったら、クールに見えて、なかなかやるわね)
先に飛び込んで来たのは、夫人の思考だ。
赤面してしまいそうになり、目線が泳ぐ。
「相変わらず格好いいな、君は」
伯爵に言われ、恐る恐る顔を見た。
父親から見たら、こういう装いはどう思われるのだろう。




