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「バート様は優しいから断れなかっただけなのに、私が強引に引き止めたから、嫌われたのかと思って……」
「え!?」
思ってもいなかった言葉に驚く。
「何を言っているんだ。そんなわけないだろ」
慌てて否定するが、ティアラは俯いたままだった。
「……でも全然触ってくれないし、目も合わないです……」
そ、それはやましい夢のせいで!
言われて思い出す。
確かに気まずくて、触れられると体が強張ったり、目が合うと罪悪感で目を逸らしていたかも……
俺の態度のせいで不安にさせたんだ。
「ずっと謝らなきゃと思ってたんですが……勇気が出なくて……あの日は我儘を言って困らせて、すみませ……」
最後は声にならなかった。
声を押し殺して泣くティアラを見たら、胸が痛くなる。
「違うんだ。ティアラ」
そっと背中を撫でる。
「……ごめん。あの日、ネグリジェだっただろ。初めて見たから、ドキドキして……その、意識しちゃっただけなんだ……」
格好悪いが、ありのままの事実を伝える。
恥ずかし過ぎるけれど、嫌われたなんて思わせたくない。
「嫌ったりするわけない。ティアラが好きだから、少し照れて困っただけ」
俺の言葉で、ティアラが顔を上げる。
「俺も本当は二人きりで嬉しかった……」
(本当に……? バート様は大人っぽいし、いつもクールだけど、そんな風に思ったりするんだ。やっぱり膝掛け取りに行けば良かった! 部屋が温かいのに膝掛けを持ってきたりしたら、『意識してます』……って思われちゃうかなとか考えちゃって……)
そうか。ティアラはティアラなりに悩んでいたんだな。
過剰評価だよ。最近はクールじゃいられないんだ……
「……格好悪くてごめん」
もう一度謝る。
「い、いえ! そんな! バート様は格好良いです! じゃなくて……ちゃんと話してくれて嬉しかったです」
(悩んだら寄り添ってくれて、落ち込んだら話してくれる……バート様のそういうところも大好き)
うん。俺も……
目が合って、お互い笑う。
「髪飾り、バート様が選んでくれますか?」
ティアラがぎゅっと手を握ってきた。
ようやく笑顔になり、ほっとする。
「俺、センスないけど……色や形は決まっているの?」
(言っちゃってもいいかな……レヴァイン家の家紋の──)
「白バラの髪飾りにしたいです!」
✳✳
「どれも素敵ですね」
(わー! 可愛い! こっちもお洒落! 綺麗な細工だわ……見てるだけでウキウキしちゃう!)
ティアラの心の声に笑ってしまいそうになる。
狡いとは思うが、できれば気に入って喜んで貰える物をあげたい。
「これはこれは、レヴァイン様。今日はどんなご用で?」
すぐに店主が気が付き、奥へと通される。
「すみません。白バラの髪飾りをいくつか見せてください」
店主に伝えると、すぐに何点か髪飾りを持って来てくれた。
「実際にお手に取って見てください」
手袋を受け取り、ティアラに手渡す。
「どれも素敵ですね!」
ティアラが真っ先に手に取ったのは、大きめの白バラにパール、レースがふんだんに使われている物だった。
(お姫様みたいな装飾! でも夜会なら、こういうのもありかしら? ちょっと子どもっぽいかな。バート様の好みの物をつけてみたいし、今回はお任せしよう)
俺は迷わず、それを選んだ。
「大切にしますね。デビュタントが楽しみです!」
ティアラは嬉しそうに箱を見つめている。
「その前にティアラの誕生日だね」
「はい!」
『誕生日にキス』
思い出し、顔が熱くなる。
──もうすぐ、ティアラの生まれた日。




