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「……どうですか?」
「凄く美味しいよ」
(やった! バート様に褒められちゃった。いつかの為に練習しておいて良かった……)
静かな部屋に二人きり。美味しい紅茶を出してもらっても味なんか分からない。
(部屋は温かいけど、ジャケット返したくないな……すっごく良い匂い。バート様に抱きしめられてるみたい……)
キュンとしてしまい、手を伸ばしかけてやめた。
(抱きしめて欲しい……)
そんな事したら、ネジが飛びそうな気がする。
……目を見ると、危険だ。
そっと目線を外し、カップを手に取る。
隣に座ってるから、どうしても目がいってしまう。
ネグリジェに俺のジャケットだと足は出たままだし、胸元もいつもより開いている。
『ジャケットのボタンを閉めて、タイツやドロワーズを履くか、膝掛けとかを持ってきたら?』と言いたい。でも言ったら、ティアラは落ち込んじゃいそうな気がする。
無防備なのは、俺を信用しているって事……
紳士らしく……
グルグル考えながら、紅茶を飲み、カップをソーサーに戻す。
その時、腕を組まれ、肩に頭を乗せられた。
思わず目を見てしまうと、ティアラは嬉しそうに微笑んだ。
(大好きです、バート様。本当にご無事で良かった……)
うん。俺も……
最近、ティアラが可愛くて、どうしようもないんだ。
お互いが好きなんだから、少し位……
いやいや! 何を考えているんだ。真夜中、ご両親が不在なのに手を出したりしたら──
(早く結婚したいな。バート様と一緒に暮らしたら、きっと毎日、幸せ……)
そんな声を聞いてしまったら、もう駄目だった。
「……好きだよ」
抗えず引き寄せた。
「私もです……」
ティアラが好きだ。
全部を言葉にする事はできなくて、ただ強く抱きしめる。
顎をそっと上げ、指で唇をなぞった。
ドッ……! っとティアラの心臓が跳ねるのが分かった。
(え……嘘……まさか、キス……?)
ティアラの頬が一瞬で真っ赤になる。
『誕生日にキスして欲しい』
ふと心の中で聞いたお強請りを思い出す。
ティアラにとってのファーストキス。女の子の初めてはとても大事なものだと聞いた事がある。
大切にしたい……
グッと我慢して、頬にキスしてから、もう一度抱きしめた。




