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バンッ! 派手な音がして正面玄関が勢い良く開いた。
「バート様っ!」
(幻でも幽霊でもない……本物だ!)
走ってきたのだろう。遠目でも肩で息をしている。
淡い水色のネグリジェ。いつもと違い腕や足が露出していて、目のやり場に困ってしまう。
戸惑いながら、ティアラに駆け寄った。
──近付いて、ようやく気付いた。
珍しく乱れた髪。目の下の隈。憔悴している様子を見て、思った以上に心配をかけたのだと悟る。
「連絡できず、ごめん。嵐で船に乗れなかったんだ。偶然、窓を開けてくれて良かったよ。真夜中だし、出直そうか迷っていたんだ」
言い終わると同時に、ティアラが思い切り抱きついてきた。
「て………手紙も届、かない……から、何かあったのかと……! 無事で良、かっ……た……! ぅ……ッ……」
ティアラはそのまま大泣きしてしまった。
こんな泣き方、初めて見る……
まるで子どもみたいに泣きながら、俺の腕を掴み、嗚咽を堪えている。
零す涙が俺を好きだと言っているようで、愛しくて堪らない。
「ごめんね、泣かないで……」
髪にキスすると、痛い位、抱きつかれた。
ネグリジェは生地が薄過ぎて、制服やドレスの時とは違う。
心臓が忙しなくなり、体が熱くなってくる。
一人狼狽えていると、ティアラが顔を上げた。
「偶、然じゃ……ないんです……港で待って、も帰っ……て来ないし、定期便が……終わっ……た後は、もし、かした……らと思っ……てベ、ランダで……」
(心配で夜も眠れなくて、ずっと待ってたんです)
あれから毎日……?
ボロボロと溢れる涙をハンカチで拭った。
「……あ……これ、私が……昔にあげ、たハン……カチ? もう色褪せて……るの、に……」
(まだ使ってくれるんだ……)
「ティアラからの初めてのプレゼントだから……」
そう伝えると、ティアラは余計に泣いてしまった。
「会い、たかっ……たです……」
「……俺も会いたかった」
「バー、ト……様……」
「そろそろ泣きやんで」
ぎゅっと抱きつかれ、腕の中でティアラが泣く。
な、なんだろう。この感じは……
ティアラがこんなに泣いているのに、不謹慎だが凄く嬉しい。
しばらく抱き合ったまま、幸せを噛みしめていた。
一度離して上着を脱ぐ。
それをティアラに着せると、ハッとしたように言われた。
「私ったら、こんなはしたない格好ですみません。あの。い、いつもはもっと大人っぽいのを着てるんですよ」
(恥ずかしい! いくら久し振りだったからといって!)
そんな事より目のやり場に困る。
「これも可愛いと思うけど」
ネグリジェに俺の上着。なんとも言えない気持ちになる。
(可愛い……)
白い肌が赤く染まっていく。
なんて顔を……




