53
一面に青空が広がる。雲一つない快晴。
カーテンを開き外を見て、自然と笑みが零れる。
「ギル、晴れたぞ! ようやく帰れる!」
乱暴にノックされ、扉を開ける。
「殿下。王族がそんなに声を荒らげたりしてはいけません」
(やっと晴れた! すぐに出発しよう!)
久し振りの笑顔だ。昨夜の落ち込みようが嘘みたいに晴れて明るくなっている。
「なんだよ。お前だって嬉しいくせに」
「そうですね……」
否定はできなかった。
✳✳
嵐が去り、海は穏やかだった。船首に立ち、水平線を見つめる。
「そろそろ食事にするか」
「はい」
殿下に言われ、頷いた。
乗客は海を眺めたり、酒を飲んだり、カードゲームをしたり、思い思いに過ごしているが、気が競って仕方ない。
ティアラに会いたい……
顔を見たい……
焦っても船が早く着くわけではないのに。
船に一日揺られ、帰り着いたのは夜中だった。
「俺は馬を借りて王宮へ戻る。馬車なんか待っていられない。ギルはどうする? 馬車を手配しようか?」
殿下の言葉に護衛達は真っ青になった。馬車でないと警護が難しい。かといって説得しても聞くような人ではない。
(アイリーン様を心配されているのは、重々承知だが──)
(この様子だと街ではなく、森の方が早いから突っ切るとか言い出しそうだぞ!)
(森だと警護が手薄になるし、夜は獣や魔物も出る。街から帰りたい……)
(ギルバート様! 馬はやめるよう、説得してください!)
(殿下はギルバート様の言う事だけは素直に聞くから……)
過剰評価されても困る。
可哀想だが、今回は護衛達に頑張って貰うしかない。全員に縋るような目で見られたが、今回は助け舟を出さなかった。
「いいえ。馬を借ります」
(ギルバート様まで!)
俺の言葉に護衛達が落胆している。
俺も殿下と同じ気持ちだ。ティアラに少しでも早く安否を伝えたい。
「分かった。ギルの荷物はレヴァイン邸に送ってくれ」
殿下は侍従に指示を出してから、腰に剣を準備し、馬に跨った。
✳✳
森では問題なく獣や魔物に遭遇せず、帰って来る事ができた。
殿下と別れ、真夜中、馬を走らせる。
ルアーナ邸が見え、ほっと一息つく。
勢いで、先触れも出さずルアーナ邸まで来てしまったが──
こんな時間に、叩き起こすのはいかがなものか。朝、改めて出直すか……?
でも、きっと心配しているだろうから……
とりあえず馬を繋ぎ、裏庭の方へ回った。
どの部屋も明かりが消えている。
もし誰か起きていれば、伝言を頼もうと思ったけれど……
流石にこの時間じゃ無理か。
ティアラの部屋を見ていると、ガラッと窓が開いた。
「ティアラ……」
思わず呟く。
ティアラはベランダでしきりに外を気にしている。
そのうち、目が合った。
「バ……バート様‼」
あまりの大声に焦る。
皆、起きちゃうから……そう言おうとしたら、物凄い勢いで窓を閉められた。
下りてきてくれるつもりなのか……




