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婚約者の心の声が可愛過ぎて困っています  作者: りょう
第一部

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4

『祝福について話さない』

『聞こえてくる心の声を話題にしない』

『なるべく目を合わせないようにする』

 あれから二年。新しい地では、十分に注意した。

  

(王太子殿下の友人って本当?)

(宰相の息子らしい)

(先生まで媚を売って、嫌な感じ)

(試験が満点とか嘘だろ?)

(こいつに取り入れば、利益が──)

 どんなに気を付けても、聞こえてくる。


 ──でも。


「ギル。変装して城下町に遊びに行こう。俺、サーカスが見てみたいんだ」

「殿下。城を抜け出したら、また怒られますよ」

 彼は家族とも友人とも違う。

「ライルと呼べってば。つれない事を言うなよ。お前も興味あるだろ?」

(一人でも行けるけど、ギルと行きたい)

 殿下は素直な方で、俺達は驚く程、仲良くなった。


 王立学院に入学。殿下と同じクラスになり、自然と一緒の時間が増えてきた。

 口は悪いが、俺にとって心を許せる相手であり、まるで兄弟ができたような感覚だった。


✳✳


「ギル、植物園に付き合ってくれ」

「またですか。今度はどんなご用で?」

(アイリーンをデートに誘いたいから、下見へ。断るなよ。お前にしか頼れないんだ)

 そう言われて悪い気はしない。

 

 あれから思い立った殿下はすぐに行動に移した。

 レイシア嬢に花束をプレゼントし、想いを伝え両思いである事が判明。その後、正式に婚約が結ばれた。


(ギルは女の子を抱きしめた事はある?)

「……ないです」

(良い雰囲気になったら、どうしよう)

 殿下の頬が赤くなる。

「植物園で不埒な事しないでくださいね」

(急にそんな事をしたら、怖がらせると思う?)

「だから経験ありませんって」

(手も繋ぎたいんだけど)

「殿下!」

(……なんだよ、怖い顔をして)

「口で話してください。独り言みたいで嫌です」

(こんな恥ずかしい事、口に出せるか!)

「俺も恥ずかしいです」

 顔を見合わせて、笑ってしまう。



 休日に訪れた植物園。日に照らされた新緑が眩しく、キラキラと輝いている。新しくできたというバラのアーチも見事で、訪れた人を楽しませていた。


「こんな場所で偶然会えるなんて。お茶でもしに行かないか?」

「……あの。友人とスケッチの課題をしに来ているので。もう少ししたら両親が迎えに来ますし」

「じゃあ、俺が伝言しといてやるから」

「……」

「少し位いいだろ」

「困ります。手を離してください」

 威圧的な男の声と今にも泣きそうな女の子の声が聞こえてくる。


(……面倒くさいところに出くわしたな。男の方は聞き覚えがある。多分、同じ学院の奴だ。俺、助けてくる)

 殿下は正義感の強い人だ。しかし、平民に変装中の今、目立つのは得策ではない。

「殿……ライル様は大人しくしていてください。万が一の場合には俺が──」


 注意深く近寄ると、淡い桃色の髪が見えた。

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