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『祝福について話さない』
『聞こえてくる心の声を話題にしない』
『なるべく目を合わせないようにする』
あれから二年。新しい地では、十分に注意した。
(王太子殿下の友人って本当?)
(宰相の息子らしい)
(先生まで媚を売って、嫌な感じ)
(試験が満点とか嘘だろ?)
(こいつに取り入れば、利益が──)
どんなに気を付けても、聞こえてくる。
──でも。
「ギル。変装して城下町に遊びに行こう。俺、サーカスが見てみたいんだ」
「殿下。城を抜け出したら、また怒られますよ」
彼は家族とも友人とも違う。
「ライルと呼べってば。つれない事を言うなよ。お前も興味あるだろ?」
(一人でも行けるけど、ギルと行きたい)
殿下は素直な方で、俺達は驚く程、仲良くなった。
王立学院に入学。殿下と同じクラスになり、自然と一緒の時間が増えてきた。
口は悪いが、俺にとって心を許せる相手であり、まるで兄弟ができたような感覚だった。
✳✳
「ギル、植物園に付き合ってくれ」
「またですか。今度はどんなご用で?」
(アイリーンをデートに誘いたいから、下見へ。断るなよ。お前にしか頼れないんだ)
そう言われて悪い気はしない。
あれから思い立った殿下はすぐに行動に移した。
レイシア嬢に花束をプレゼントし、想いを伝え両思いである事が判明。その後、正式に婚約が結ばれた。
(ギルは女の子を抱きしめた事はある?)
「……ないです」
(良い雰囲気になったら、どうしよう)
殿下の頬が赤くなる。
「植物園で不埒な事しないでくださいね」
(急にそんな事をしたら、怖がらせると思う?)
「だから経験ありませんって」
(手も繋ぎたいんだけど)
「殿下!」
(……なんだよ、怖い顔をして)
「口で話してください。独り言みたいで嫌です」
(こんな恥ずかしい事、口に出せるか!)
「俺も恥ずかしいです」
顔を見合わせて、笑ってしまう。
休日に訪れた植物園。日に照らされた新緑が眩しく、キラキラと輝いている。新しくできたというバラのアーチも見事で、訪れた人を楽しませていた。
「こんな場所で偶然会えるなんて。お茶でもしに行かないか?」
「……あの。友人とスケッチの課題をしに来ているので。もう少ししたら両親が迎えに来ますし」
「じゃあ、俺が伝言しといてやるから」
「……」
「少し位いいだろ」
「困ります。手を離してください」
威圧的な男の声と今にも泣きそうな女の子の声が聞こえてくる。
(……面倒くさいところに出くわしたな。男の方は聞き覚えがある。多分、同じ学院の奴だ。俺、助けてくる)
殿下は正義感の強い人だ。しかし、平民に変装中の今、目立つのは得策ではない。
「殿……ライル様は大人しくしていてください。万が一の場合には俺が──」
注意深く近寄ると、淡い桃色の髪が見えた。




