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「で、殿下⁉ なぜ、ここに⁉」
慌ててベッドから下りる。
「流石に真夜中に表から入るのは、迷惑かと思い、ベランダから忍び込んだ。いくら暖かくなってきたからといって、窓の開けっ放しは防犯上良くないぞ」
「な……まさか、木を登ったんですか⁉ 王太子殿下である自覚を持ってください! 何かあったら、どうするんですか!」
「はは。そこは俺が木登りした事よりも不法侵入を怒れよ」
(緊急事態だったんだ。許せ)
緊急事態……⁉
「早くギルに報告したくて、朝まで待っていられなかったんだ」
そう言って殿下が照れくさそうに笑う。
(アイリーンが懐妊した)
まさかの台詞に唖然とする。
ご懐妊⁉
「不調だったのはその為らしい。……俺、父親になるんだ」
(第一子は王子だったら嬉しいが、健康ならどちらでも良い。アイリーンに似ている姫ならさぞ可愛いだろう。俺も父親として、王太子として、益々の自覚を持って──)
「殿下」
思わず心の声を遮ってしまう。
「……なんだ?」
「結婚前なのに大丈夫でしょうか……」
不安を口にする。
陛下と皇后様はなんて……
(お前は優しいな。心配してくれているのか)
問いかけに躊躇いつつ、頷く。
「責められる覚悟で、すぐ父上と母上に報告しに行ったんだが、自分の事のように二人とも喜んでくれたよ。アイリーンを守る為、後ろ盾になってくれると約束もしてくれた。王族の子を身籠っていると知られれば、危険もあるかもしれない。アイリーンはそのまま王宮で暮らす事になった」
「そうでしたか……」
(一応は内密にな。ルアーナ嬢には話しても良いが、口止めはしておいてくれ。まだ、どのタイミングで公にするか決まっていないんだ。流れてしまいやすい時期だから、アイリーンが傷つくような事にならないようにしたい)
「おめでとうございます」
あまりに驚いて、祝福の言葉を忘れていた。
「……ありがとう」
真剣な目で見られ、姿勢を正す。
(お前に頼みがある)
「頼みですか?」
……珍しい。基本、『頼んだ』『やってくれ』と言われる事が多いのに。
「隣国へ同行して欲しい」
それは思いがけないものだった。
「……いつからですか?」
「今すぐにでも」
信じられない言葉に驚いていると、殿下が頭を下げた。
「頼む。アイリーンのご両親は隣国に視察に行っていて、まだ話せていないんだ。手紙じゃなく、俺から話したい」
「あ、頭を上げてください! 王太子殿下たるもの、そう簡単に頭を下げてはいけません」
慌てて言うと、殿下が顔を上げた。
「後は、今回の視察に揃って重鎮達が同行しているから、見極めて欲しいんだ。アイリーンを本当に守ってくれる人物かどうか」
(政権争いに巻き込まないように。不安要素は早めに摘み取りたい)




