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婚約者の心の声が可愛過ぎて困っています  作者: りょう
第二部

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「バート様!」

 ティアラの声がして、顔を上げる。

 手を振り答えると、トレイには焼き立てパンとクラムチャウダーが乗っている。

「すみません。冷めちゃうし、食べてくださっていて、良かったのに。バート様は白身魚のグリルにしたんですね、美味しそう!」

 ティアラはまだコードウェルに気付いていないようで、俺の向かい、コードウェルの隣に座った。


「よぉ」

「シアン様……! いらっしゃったんですね」

 コードウェルが声をかけると、ティアラは横を向いて驚いている。 

「ちょっと卒業パーティーの進行の件で話したくて……」

「そうでしたか」

「ティア、なんか髪に付いてるぞ」

 コードウェルがティアラの髪に触れた。

 手を払ってやりたいのを我慢し、苛つきながらグラスに入った紅茶を飲み干す。

「え? なんですか?」

「虫?」

「虫⁉ ど……どんな虫ですか?」

 ビクビクと怯えるティアラを見て、コードウェルがクッと笑う。

「ティアは昔から虫が苦手だな。もういない」

「良かった……」

 ほっとしているティアラを見て、コードウェルは肩を揺らしている。

 ……本当に虫いたのかよ。そもそも学食に虫がいるわけないだろ。触りたかっただけじゃないのか。

 モヤモヤしてると、コードウェルと目が合った。

(ハッ……これ位でヤキモチ妬いてんのか。小さい男め。お前はどうせ触れないだろ。良い子ちゃんで格好つけの優男だもんな。虫苦手なの、可愛い。ティアの髪、ふわふわだった……)

 持っていたグラスをテーブルに置く。

 これ以上聞いていられない。


「ティアラ、クラムチャウダー美味しそうだね。一口欲しいな」

 少し前に出て口を開けると、ティアラの頬がポッと赤くなった。

(え? え? これって、食べさせてって事⁉ 二人きりの時にもやった事ないのに? こんな公衆の面前で? しかも、その後、私も同じスプーンで食べるの?)

 ティアラは真っ赤になりながら、俺をじっと見た。

 これは……恥ずかしい。でもコードウェルに負けたくない……

(男性に恥をかかせては駄目よ! バート様の顔、赤い……自分で言ったのに、照れてるの? やだ、可愛い! 口開けてても格好良い……)

 ここまできたら、引っ込みもつかない。


 ティアラは少し考えてから、スプーンに一口掬い、俺の方へ近付けた。

 パク。躊躇わず、それを口に入れ、急いで咀嚼(そしゃく)する。

 周りはシーンと静まり返り、好奇の視線だけが刺さる。

 あー。何やってんだ。皆、見ているし……

(た、食べちゃった! 恥ずかしい……)

 ティアラまで恥ずかしい思いさせてごめん。

  

 バン! 突然、コードウェルが席を立ち、顔を見る。

「急用を思い出しまして、俺は先に失礼します」

 全く不機嫌を隠せていない。

(野郎……なんだ、今の? 相思相愛気取りか! お前はクールな男なんだろ、そういう事すんなよ! クソッ!)

「ティア、委員会の時に」

 短く告げると、奴は怒った様子で行ってしまった。

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