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婚約者の心の声が可愛過ぎて困っています  作者: りょう
第二部

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「もしかして体調悪いですか?」

(珍しく眠そう……)

 次の日、馬車の中で目を擦っていると、ティアラが心配そうに声をかけてきた。

「ただの寝不足。昨夜、殿下に呼び出されて王宮に行って来たんだけど、延々と惚気話を聞かされて帰してくれなくて」

「惚気話! 意外です」

(王太子殿下が惚気話? いつも隙もなく惚気そうにないのに……)

 一般的にはそういう見解だろう。実際、アイリーン様の惚気話をするのは、俺だけみたいだし。

「殿下には俺がバラしたって秘密ね」

「ふふ、分かりました」

(男性も惚気話なんてするんだ。王太子殿下がアイリーン様の事を褒めたり、好きなところを話したり? いいないいな。羨ましい!)

 ……女の子は惚気話をされたいのか。


「俺は殿下にティアラの話はしないよ。だって……」

 口にしてしまってから、一気に恥ずかしくなる。

(え? 何? バート様、真っ赤なんだけど……)

「……ティアラの可愛いところなんて誰にも教えたくないし。知ってるのは俺だけでいい」

 そう伝えると、ティアラの頬がボッと赤くなる。

(な、何それ……独占欲……? こんなに格好良い人が……?)

 言ってしまった……

 でも後悔はない。

 これからデビュタントだし、自分は可愛いいんだって自覚してもらわないと困る。

「そ、そんな……私なんて……」

 戸惑うティアラの手を取る。 


「可愛いよ。誰より」

 手の甲にキスをしてから目を見つめる。

(手にキスされちゃった……! 騎士様がやると、『敬愛』のイメージが強いけど。手の甲へのキスは普通『愛情表現』……)

 ティアラは躊躇いがちに手を握り返してきた。

「バート様」

「……うん」

「大好きです……」

「俺も……」

 じわりと幸せが広がる。

 

(バート様も私が好き……本当に片思いじゃないんだ……)

 ティアラの目に涙が溜まった。

「ティアラ?」

「違うんです。これは嬉しくて……」

(涙は悲しい時に流れるものだと思ってた。幸せだと思ったら、目頭が熱くなって……)

 ……幸せで泣いちゃうなんて。

 少し考えてから手を伸ばす。肩を抱くと、ティアラの頬と耳に赤みが差す。潤んだ瞳を見ていたら、堪らなくなって、抱きしめた。


「涙目、可愛い」

 つい浮かれて口にしてしまう。

 殿下の気持ちが分かってしまった。

 ……涙目ってどうして、こんなに。

 赤くなった耳をそっと撫でる。

「んんっ……」

 聞いた事のない声にドキッとする。

(何、今の! 妙な声出ちゃった! バート様のせい! 変な触り方するから! びっくりしただけなんです!) 

「ご、ごめんなさい! く……くすぐったくて」

 ドキドキし過ぎて、黙ったまま撫で続けていたら、ティアラがパッと手首を掴んだ。

「バ、バート様⁉ きょ、今日はどうされたんですか? 寝不足でおかしく──あ、いえ。その……嬉しくないわけはないのですが……ちょ、ちょっと近過ぎです……」

(私から抱きついた事はあるけど……こんな風に甘いの、初めてかも? 妄想では甘い時もあるけど、現実のこの破壊力……耐えられないっ)

 妄想って……

 真っ赤になりながら慌てるティアラをこっそり笑う。


 俺の事を意識して欲しい……

 ──最近、感じた事のない感情に振り回されている。

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