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婚約者の心の声が可愛過ぎて困っています  作者: りょう
第二部

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39

 羽織っていた上着を脱ぎ、襟を正す。

 その夜、食事を済ませてから、王宮を訪れた。

 シャンデリアやアンティークが眩しい。何回来ても豪華絢爛(ごうかけんらん)で目がチカチカする。


「お待ちしておりました、ギルバート様。カーライル様から、伺っております。上着をお預かり致しましょう」

 家令のリードさんが迎えてくれ、頭を下げる。侍従が側に来て、上着を手渡した。

 リードさんはこの王宮を仕切る家令だが、殿下を幼い頃から見守ってきた家族に近い存在でもある。殿下の名前を呼ぶ事を許された数少ない人物だ。

「今日、アイリーン様の具合が悪く、ご邸宅に送り、しばらく付き添われたそうで、カーライル様も先程帰られたばかりなのです」

「そうだったんですか」

(食事も取らず書類確認ばかりで、困ったお人だ)

 リードさんの言葉に戸惑う。

 もしかして湯浴みもまだだったりして……

「あの、俺、出直しましょうか」

 恐る恐る言い出してみる。

「いえいえ。何か話があるようですよ。ギルバート様のお越しをそれはそれは楽しみにしていらっしゃったので、是非ともお茶をしていってください」

(ギルバート様がちょうどいらして良かった。仕事を始めてしまうと飲まず食わずになるから、良い休憩になるだろう)

 まぁ、そういう事なら……

「お入りください」

 扉を開けられ、執務室に通された。

『楽しみ』なんだか怖いが……



「カーライル様。ギルバート様をお連れしました」

「失礼致します」

 リードさんに続き、返答を待つ。

「今、ちょっときりが悪いんだ。掛けて待っていろ。リード、紅茶の準備を頼む。終わったら人払いを。ギル、先に食べていていいから」 

 中から声だけ返ってきた。

「かしこまりました。ギルバート様、奥へどうぞ」

 リードさんに言われ、中に入ると、テーブルには焼き菓子やケーキが準備されている。

「美味しい茶葉があるんですよ。少々お待ちくださいね」

 リードさんはお茶の準備を始めてしまった。

 そう言われても、主が仕事中なのに自分だけ飲食はできない。

「カーライル様がパティシエに頼まれて、ギルバート様のお好きなパルミエとマドレーヌを焼いたんです。では、私は外で待っておりますね。何かありましたら、お呼びください」

 リードさんはお辞儀して、メイドを連れ部屋から出て行った。



「悪い。待たせたな。なんだ、全然食べてないじゃないか」

 少し待っていると、殿下がソファに腰を下ろした。

 アイリーン様の事を説明しようとしたら──

「ギル。アイリーンから聞いたよ」

 殿下の方から切り出してきた。

(泣きながら『寂しかった』『もう少し話したい』って言われてさ。はー。可愛いかったな……)

 アイリーン様、言えたんだ……

 その言葉にほっとする。

「サプライズも全部話した。驚かせたかったけど、泣かせたかったわけじゃないし。話したら余計泣いてしまったが……」

「そうでしたか」

 それはちょっと残念な気もするけれど……

 何ヶ月も前から頑張っていたし。

(もー可愛いのなんのって。病人だし、押し倒すのはグッと我慢したけど)

 ……押し倒さなくて良かったです。

 浮かれた声が聞こえて、肩をすくめる。

「『結婚の準備とかで忙しくしていて、気付いてやれなくて悪かった』と謝ったんだ。そしたら『我儘言ってごめんなさい』と言われた」

(アイリーンはしっかり者だし、そんな風に言われて驚いたけど、嬉しかったな……俺と会いたくて泣いちゃうとか、寂しくて不安になるとか……)

 幸せそうに思い出しながら照れる殿下。


 その夜は惚気を聞かされ、なかなか帰らせてもらえなかった。

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