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3

 カーライル王太子殿下は早くから教育を受け博識であり、すでに会議や視察にも同行しているらしい。

 対する俺は宰相の息子で国王陛下のお気に入りなんて言われている。煙たがられる予感しかないし、好かれる理由も見当たらない。

 気を重くしながら、案内された廊下を歩く。


「ギルバート=レヴァイン様がいらっしゃいました」

 侍従が告げ、中に通された。


「王国の若き太陽にご挨拶を申し上げ──」

「人払いを」

 挨拶の途中で殿下がそう言い、侍従達は外へ出てしまった。

 突然、殿下と二人きりになり、緊張が走る。

 輝く金色の髪、意志の強そうなエメラルドの瞳、聡明そうな佇まい。国王陛下にそっくりだ……

 そんな事を思っていると、じっと見つめられた。


(愛称は?)

「ギルと呼ばれています」

(婚約者は?)

「いないです」

(好きな子は?)

「いません」

(つまらない人生を送っているな。趣味は?)

「……読書でしょうか」

 心の声と会話していると、俺だけ独り言を話しているみたいだ。


「俺より格好良いし背も高くて、面白くない」

 王太子らしくない言葉に戸惑う。

 こんな美形に格好良いとか言われても……

(どうせ隠しても、聞こえるんだろ? 俺ははっきり言うからな)

 そんな風に言われるのは初めてだ。

「お前、チェスはできるか?」

 テーブルに置かれたチェス盤を指さされる。

「……はい」

(心が読めるからって、調子に乗るなよ? 心理戦で負けた事はないんだ)

 聞こえてきた心の声に面喰らってしまう。

「挨拶がまだだったか。カーライル=ミリオン=セントバナー。ライルでいいよ。お互い、子どもなのに苦労するな。振り回されて、大変だろう」

 手を差し出され、おずおずと握り返した。

「いずれ俺の側近になると聞いた。これからよろしく、ギル」

 屈託のない笑顔を向けられる。それは、俺にとって初めての体験だった。


(お前を見込んで頼みがある)

 神妙な顔を見て、姿勢を正す。

「……なんでしょう」

(俺の婚約者にアイリーン=レイシアの名前が挙がっている。俺の事をどう思っているか、探ってきてくれ)

「『どう』、とは?」

(その……俺の事を好きか嫌いか。同じ学院の子だが、言い合いになってしまう事が多くて。ついでに好きな男のタイプ、好みの花や菓子も調べて来い)

「殿下」

「……なんだ」

「私的な事を探るのはあまり勧めません」

 孤立していた事を思い出し、口にした。

(素直になれないだけで、俺はアイリーンの事を気に入っている。でも向こうは立場的に婚約を断れないんだ。無理矢理だったりしたら、可哀想だろう……)

 バツの悪そうな顔を見て、少し年相応だと思ってしまった。

「……好きな花を聞いてプレゼントしたらどうですか? 直接、殿下のお気持ちを伝えてみるのが良いと思います」

(今まで喧嘩ばかりだったんだ。今更……)

 そこまで言われて目を逸らされた。

「『当たって砕け散る』がレヴァイン家の家訓です」

「ははっ。俺はレヴァイン家の一員じゃないんだが。砕け散るって……ふ、はは……」

 笑うと雰囲気がガラッと変わる。

 一度外れた目線が合わさった。

(分かったよ。頑張ってみる。お前、良い奴だな。ありがとう。ギルに好きな子ができたら、俺が相談に乗ってやるから)

 そんな日は来ないと思うけれど……


 裏表がなく、言いたい事ははっきり言う。

 本音を隠さない。

 殿下は堂々としていて、凛とした人だった。

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