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婚約者の心の声が可愛過ぎて困っています  作者: りょう
第二部

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「アイリーン様はこの後、いらっしゃいますか? 私、お会いして、お話したい事が……」

「あぁ、アイリーンは医務室で休んでいる」

(寝不足だと言っていたが……)

 心配そうな顔で、殿下は俯いた。

 アイリーン様からは口止めされているし、なんと言おうか。俺から説明するよりも、ご本人から『話したい』って甘えられた方が嬉しいと思うけれど。

「お見舞いには行けますか?」

 ティアラが控えめに言うと、殿下は優しい笑顔を見せた。

「ありがとう、ルアーナ嬢。アイリーンも喜ぶよ。でも、まだ寝ているんだ。ルアーナ嬢が心配していた事は伝えておく」

(ギル、分かってんだろうな。夜、必ず来いよ)

 にこにこしている殿下に頭を下げ、ティアラを連れ、そそくさと部屋を出た。



(ちょっとだけ甘えたい)

 馬車に乗り込むと、ティアラが横に座り、腕に抱きついてきた。

 やわらかい感触がして、固まる。

(幸せ……)

 その声を聞いて、ハッとする。

 俺は何を考えているんだ。ティアラは幸せを感じてくれているのに!

 邪な想いに気付かれたくなくて、サッと目を逸らす。

 どっ……どこを見ていればいいんだ。

 慌てて馬車のカーテンを開けた。

「ティ、ティアラ。ゆ……夕焼けが綺麗だよ」

 若干、挙動不審になってしまう。

「わぁ……」

 ティアラは外を見て、感嘆の声を漏らした。

 茜色の雲の隙間から漏れる光は幻想的で、美しい景色が流れる。

 雰囲気が変わって良かった……


 しばらく外を見入った後、ティアラが振り向いた。

「バート様、今日はありがとうございます」

(好きって言ってくれて、嬉しかったです。もっと大好きになりました! ……恥ずかしいから、言えないけど)

 聞こえてる……

 我慢できず、ニヤけてしまう。

(抱き合うのがあんなに幸せだなんて、知らなかったな。バート様は細身だけど、思ったより逞しいのね。しかも良い匂いだった。私があげた香水、毎日使ってくれて嬉しい……)

 これ以上聞いていられない……

「ティアラ、週末……」

 必死に話題を探す。

「ドレスを見に行かないか?」

 婚約者の初めてのデビュタント。一緒に参加する予定だ。

 ティアラの誕生日も近いし、ドレスとアクセサリーを贈る予定で、先に予約は入れておいた。

「はい!」

(もうすぐ誕生日とデビュタント……ドレスのプレゼントは初めて。バート様にエスコートしてもらって、二人でダンス! 楽しみだわ)

 浮かれるティアラを他所(よそ)に俺は少し憂鬱だった。

 デビュタントは社交界へのデビュー。王家の宮殿で行われ、婚約者がいる場合は一緒に入場し、最初にダンスを踊る。

「私、ダンスの特訓中なんです。足踏みそうで怖いです」

「一緒に踊れるだけで嬉しいよ」

「……はい」

(私の婚約者様、優しい! 私、ダンス苦手だけど、頑張るわ!)

 上目遣いで見られてドキドキしてしまう。

 ティアラは可愛いから、夜会では目立つんだろうな。他の男にダンスを誘われたら、優しいから断れない気がする。

 腰に手を置くとか密着するとか──

 冷静になれる気がしない。

 最近は婚約者を寝取る事を目的として、夜会に入り込む輩も多いし、俺の心配は尽きなかった。

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