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婚約者の心の声が可愛過ぎて困っています  作者: りょう
第二部

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「聞いてくれ」

 両肩を掴むと、ティアラは怯えた表情になった。

「ひ……昼休みも終わるし、教室にも、ど……戻らないと」

 普段はあまり、されない拒絶。かなり動揺しているようだ。

(怖い……何を言われるの? 聞きたくない。『本当はアイリーン様が好きだったんだ』とか……無理っ‼)

 半ばパニックを起こしたような心の声が聞こえる。

「今、聞いて」

 緊張が移るが、先延ばしにはできない。

(聞いてしまったら、なかった事にはできない。きっと、しこりが残る。嫌だ。この場から逃げ出したい!)

 それを聞いて言葉は大事なんだと、改めて思った。

 

 孤独だった幼少期。本音を聞くのも話すのも怖くて、ずっと避けてきた。

 心の声なんて知りたくない。祝福なんてなければ良かったのに。何度願っても消える事はなく、苦しいだけだった。

 ティアラがこんな俺を好きだと言ってくれて、初めて自分に自信が持てたんだ。

 恥ずかしいとか言ってる場合じゃない。誤解を解いて、ちゃんと言わないと。

 『君が好きだ』って──



「…………俺には、ティアラだけだよ」

 耳元で囁いて、そっと抱きしめた。 

「バート様……」

 ティアラの髪からはバラの香りがする。

 俺が前にプレゼントした香油だ……

 甘えるみたいに背中に手を回され、こんな状況なのに、キュンとしてしまう。

 腕の中にティアラがいる……

 感じる幸福感に、目眩がしそうだった。


 お互い、しばらく黙ったまま、抱き合っていた。

 始業のチャイムが鳴り、ハッとする。

「バ……バート様、人に見られ──」

 我に返り、ティアラが言ってきた。

「この時間は誰も来ないよ」

 ティアラの心臓の音が物凄く早い。それだけで嬉しくて、口元が緩む。

 いかんいかん。何を浮かれているんだ。

 説明もしないと……

「そ、それに授業の時間です!」

「あと少しだけ……」

「でも……」

「さっきの説明をさせて」

 そう伝えると、ティアラの体が強張(こわば)った。

 目が見えないと、心の声が聞こえず不安になる。でもそのまま、話し始めた。

「少し殿下の事で相談に乗ってたんだ。アイリーン様が貧血を起こして介抱していただけ。誓って何もない」

「そうだったんですね……」

「心配する必要なんてない。俺が好きなのは──」

 言いかけると、ティアラが俺の胸に手を置き、少し体を離し顔を見てきた。

 目を見ながら告白なんて……

 急に恥ずかしくなってくる。

(『好き』……?)

 それはどこか不安げな複雑な表情だった。深呼吸してダークブルーの瞳を見つめる。


「俺が好きなのはティアラだよ」

 初めて声に出して伝えた。

 その瞬間、ティアラの頬が赤く染まり、同時に心の声も聞こえてくる。

(嘘みたい。『好き』って言ってくれた……バート様も私が好き……)

 気恥ずかしい思いでいると、ティアラがとびきりの笑顔を見せた。

「私もバート様が大好きです」

(嬉しい。嬉しい……! 『好きなのはティアラだよ』だって)

 弾むような想いと、幸せそうに緩んだ表情。

 自然と顔が綻ぶ。


『大好き』

 ティアラのくれた言葉を反芻する。

 いつも心の声では聞いていたけれど、言葉では初めて聞いたかも……

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