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ティアラの教室を覗くが、まだ戻っていないようだった。
泣いていて、戻れなかった……?
一人で泣いているティアラを想像したら、胸が痛くなった。少し考えて、来た道を戻る。
この時間帯に人がいないのは、図書館と講堂か?
キョロキョロしながら心当たりを探した。
「そろそろ授業が始まるよ」
声をかけられ、振り向いた。そこには、何人か先生がいた。中にはティアラの学年担当の先生もいる。
「すみません! ティアラ=ルアーナを見ませんでしたか⁉」
焦って聞くと、心配そうに見られた。
「どうしたの? 何かあった?」
(驚いた! レヴァイン君の焦った顔なんて初めて見る)
「いいや。見かけていないが……」
(品行方正、沈着冷静なレヴァイン君が慌ててるとは、何事だ?)
「……」
(ルアーナさんなら中庭に……でも泣いてるところなんて見られたくないはず。どうしよう。レヴァイン君、物凄く心配してるみたい。『目にゴミが入って』って言ってたけど、喧嘩……?)
一人の先生の心の声を聞いて、頭を下げる。
「ありがとうございました。急いでいるので失礼します!」
すぐに中庭の方へ走った。
花壇の後ろに人影が見える。淡い桃色の髪が見えて、ほっとしながら近付いた。
「ティアラ」
隠れるようにうずくまっているティアラに声をかけると、ビクッと細い肩が震えた。
泣いているのを誤魔化そうしているのか、慌てて袖で目元を擦っている。それでも涙が止まらず、なかなか俺の方を見ない。
「……ティアラ?」
なるべく優しく名前を呼ぶと、少し経ってからゆっくりと顔を上げた。
「すみ、ません……逃げたりして……」
言いながら、瞬きと共に涙が落ちる。
(最近、アイリーン様は悩んでいる気がしてたんだ。王太子殿下と並んでいても、どこか寂しそうで……まさかアイリーン様もバート様を……? 王家の婚姻だし、今からなくなる事はないと思うけど……でもバート様の気持ちはどこに行くの? 本当に好きな人と一緒になれず、一生、自分を誤魔化したまま……)
「急にお腹が痛くなっただけなんです」
ティアラは泣きながら笑顔を作った。痛々しいその様子を見て、罪悪感に苛まれる。
ティアラもアイリーン様の不安に気付いていたのか。
殿下の手が早いせいで……
一瞬、殿下を恨んだが、自分の撒いた種だ。
俺の言葉が足りないせいで、不安にさせていた……
「泣かないで。ティアラ……」
指で涙を拭うと、更に涙が溢れた。
「……バート様」
(あんなに優しかったのに……可愛いって言ってくれたのに……今は兄と妹みたいな関係でも、いつかは本物の夫婦になれると思っていたのに……!)
ティアラは余計に泣いてしまった。
始めは進められるまま、婚約をした。貴族の結婚に夢なんて持てなかった。
──でも今は違う。
結婚して、この先も一緒にいたいと願うのは──




